本書の中で何度か「債券の売買には手数料はかからないが、各証券会社では売買スプレッドを設けていて、それが証券会社の手数料になっている」と述べています。
この売買スプレッドが投資家側のコストになるわけですが、一体どのくらい証券会社に抜かれるのでしょうか。これは気になるところです。
そこで、既発の外債を扱っている証券会社のサイトを複数調べてみましたが、ほとんどは「債券価格」として表示しているのは買値だけ。口座を持っている証券会社でログインしても、やはり買値しか閲覧できません。
売値がわかるのは、自分が買っている債券についてのみで、口座管理画面で資産残高を見ると、売値が時価として表示される、というのが一般的なところのようです。
購入した外債を償還まで持つつもりであれば、買値と期間中の利回り、償還金額さえわかればいいので、売値は気にする必要がないといえばないのですが、途中売却を想定して外債を買おうと考えている人にとっては、売買スプレッドがいくらなのかは重大問題です。
本書の中では、「長期の米国ゼロクーポン債は償還前の途中売却益も狙いやすい」と述べていますが、売買スプレッドでどれだけ抜いてくれるのか、それがわからなければ、売却までの期間も想定しにくくなります。
調べた中で、ただ1社、為替スプレッドとともに債券価格の「買値」「売値」をサイト上に表示している証券会社がありました。岡三証券(本体)です。
取り扱い銘柄数があまり多くないとはいえ、為替の適用レートも同時に見ることができ、また、口座開設していない人でもチェックできるのは便利です。
(この辺り、「岡三」らしい気がします)
2011年2月24日の既発米国債の価格をもとに、売買コストを見てみましょう。
2027年2月15日償還のゼロクーポン債は、買値(販売価格)が49.85。対して、売値(買取価格)は48.60。スプレッドは1.25。買値の2.5%相当分です。
為替のスプレッドで1円分、1%少々抜かれますから、トータルすると4%弱と、結構なコストになります。
このコスト水準となると、よほどタイミングを捉えた場合でなければ、超短期の売買で利益をあげるのは難しいと言わざるを得ません。
利回り水準(4.409%)から考えると、投資期間は1年超を想定しておく必要がありそうです。
(とはいえ、よほど悪いところで買わなければ、16年後の償還まで待たなくとも売却益を得られるチャンスはあると思われます)
ところで、米ドルの為替スプレッドは、大手・準大手証券ではほとんどが「仲値レート±0.5円」で、仲値は証券会社によって異なるものの、ほぼその時々の取引レートの水準です。
債券の売買スプレッドも同じように、実勢の取引価格が仲値で買値は「仲値プラスいくら」、売値は「仲値マイナスいくら」となっているかというと、どうもそうではない可能性があります。
先ほどの岡三証券のゼロクーポン債の場合、買値49.85と売値48.60の仲値は49.225です。
では、このゼロクーポン債、本国アメリカではいくらなのでしょうか。
米国債の場合、その時価を調べるうえで便利なのが米国YAHOOファイナンスの「Bonds Center」です。
この中の「Bond Screener」で、債券の種類(利付債、ゼロクーポン債など)と償還までの残存年数を指定すると、該当する債券を検索ことができます。
これで調べてみると、2027年2月15日償還のゼロクーポン債の価格は49.21。利回りは4.488%となっています。
岡三証券が基準にした価格とは時間がずれているのかもしれませんが、この価格と比べると、買値は0.64高く、売値は0.61安い水準ですから、やや買値のほうが不利です。
他の証券会社でも、どうも買値のほうが不利になっている印象はあります。
利付債の場合には、よりその傾向が強そうです。
これは、投資家が償還まで持った場合には、証券会社が抜ける手数料分は投資家が購入したときのスプレッド分に限られるためでしょう。
それにしても、利付債の売買スプレッドは「1.5」とは。ゼロクーポン債にも増して抜いてくれますね。
本国アメリカでの債券価格を調べておけば、証券会社のサイトで買値しかわからない場合でも、売買スプレッドが最低いくら以上かの目安をつけられることもあります。
たとえば、アメリカの債券価格が40.00、証券会社のサイトに表示されている買値が40.90とすると、その差は0.9。売値と債券価格との差のほうが小さいとすれば、この債券の売買スプレッドは1.3〜1.5程度ではないか、といった具合です。
なお、証券会社が参照している債券価格の時間によっては、アメリカでの債券価格よりも買値・売値ともに高くなっているようなこともあります。
たとえば、アメリカでの債券価格が30.40のとき、証券会社のサイトに表示されている買値が32.26だとします。債券価格よりも実に1.86も高い値段ですが、このときの売値は30.86と、こちらもアメリカの債券価格より高いというような状況です。
ちなみに、大まかなところで言うと、米国ゼロクーポン債の場合、売買スプレッドは1.2〜1.5程度のところが多いのではないかと推測されます。
【外貨建て債券】売買スプレッドでいくら抜かれるのかは、以上です。