8月4日、金融当局が為替の単独介入を行い、また、日銀も追加緩和策を発表したことから、76円を割り込むのではないかとも思われた米ドルは急反発し、一時は1ドル=80円台をつけました。
これで株式市場も安心して上向くだろう、と思ったところが、その日の米国市場がボロボロ。NYダウは500j超の下げ、ナスダックも5%もの下げを演じてくれました。お陰で5日の日経平均株価は前日比359.3円安。ひどい話です。
NYダウは7月22日から10営業日の間に1400j近く下げているわけですが、それとは対照的に値を飛ばしているのが米国債です。8月4日の10年債利回りは2.4%スレスレにまで下落。つまり、債券価格は爆上げしているということです。
直近1年の10年債の金利データをもとに、期間10年のゼロクーポン債の価格(年2回複利)の概算を出してみました。
7月後半から棒立ち状態で、2010年10月につけた高値(利回り2.41%)とほぼ同じ水準にまで上昇しています。7月21日から8月4日までの11営業日の価格上昇率は6%以上です。
もっと期間の長い30年債にいたっては、この11営業日の価格上昇率は実に20%超と、さらに激しく上げています。
現在の価格は、昨年8月末につけた水準(利回り3.52%)にまでは及ばないものの、二番天井となった昨年10月の価格(利回り3.69%)は抜けています。
これを見ると、期間10年超の米国ゼロクーポン債を持っているなら、一旦利益確定してもよいのでは、という感じがするのではないでしょうか。
もっとも、トレンドフォローの考え方からすれば、直近の高値まで来たらさらに高値を更新する局面ではないか、という予測もできます。だとすれば、売却時期はもう少し引き延ばしたほうがいい、との判断になります。
この点を検討するために、いまの債券価格は長期的に見てどんな局面なのかを見てみましょう。
期間10年の金利および債券価格の1962年来のチャートです。債券価格は見事な上昇トレンドの中にあり、この推移からすると、確かに2008年12月につけた最高値(利回り2.08%)を超えてもおかしくないような様相を呈しています。
ただ、この2008年の最高値は“リーマン・ショック”の影響によるものだったわけですが、現状があのときと同様、あるいは、あの時期を上回る悪い状況にあるのか、「とにかく安全資産だ、国債だ」と猛然と米国債が買いまくられるような状況か、というと答えに窮します。
現状、欧州の債務問題や米国の雇用情勢悪化をはじめとする景気減速懸念など、不安要因は少なからず存在します。しかし、世界中の株式市場が2ヶ月も暴落を続け、市場を一時閉鎖する国まであった“リーマン・ショック”時とは、状況は異なります。
また、あのときの株式市場暴落の記憶が鮮明に残っている中では、米国の金融当局としても、あの惨状の再来は何としてでも回避する方向で動く可能性は低くないと思われます。
仮に、米国の株式市場がさらに下げ、たとえばFRBが新たな量的緩和策をほのめかし、一層の金利低下見通しから米国債がより買われて、米ドルが急落する、といった局面があれば、そこは米国債を利益確定する絶好の機会と考えてよいのではないでしょうか(もちろん、それが「将来から見ての最高値」だとは断言できませんが)。
「そんなドル急落のところで米国債を売ったら損じゃないのか」と思うかもしれません。が、6月12日付けの「【外債投資】果たして円高でチャンス到来なのか?」でも紹介したとおり、長期債の場合は為替よりも債券価格のほうが影響大です。
たとえば、直近のドルの高値は今年4月6日の1ドル=85.51円、安値は8月1日の1ドル=76.31円と、10.76%も下落しています。ところが、同じ時期の30年債価格はどうかというと、4月6日が25.704、8月4日は33.59ですから、上昇率は23.48%。ドルの下落率をはるかに上回っているのです。
もし、米国債を購入したときの適用レートがよくないならば、売却代金は円転せずにそのまま米ドルMMFに入金すれば“為替のヤラレ”分を考える必要はありません。米ドルMMFの平均買いコストが今よりもドル高(円安)の場合は、おそらく売却代金の入金によって買いコストも下がるはずです。