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【値動きの性格は変化する】

その1…東電(9501)の場合

“超絶順張り化”でパフォーマンスは「ただちに悪化」

当サイトの「読者様向け情報」では、四半期に一度、各種売買シグナルのパフォーマンスランキングを掲載しています。

これは、個別銘柄の値動きの性格・傾向の強さを表すものでもあります。

たとえば、「引値の前日比上昇・下落シグナル」の場合、順張りランキングの上位銘柄は「前日比上昇(下落)の翌日、値上がり(値下がり)する傾向が強い」という性格。逆張りランキングの上位は逆に、「前日比上昇(下落)の翌日、値下がり(値上がり)する傾向が強い」という性格の銘柄です。

そうした値動きの性格に沿って売買すれば高パフォーマンスが手にできる、ということになるわけですが、ただ、その値動きの性格がこれからもずっと続くかものなのかどうか。そこが問題です。

将来のことはわからない以上は、「過去そういう値動きの性格だったので、今後も続くであろう」と仮定してポジションを取るのが基本ではあるものの、現実には値動きの性格が変化することもあります。その場合には、それまでの高パフォーマンスは一転、同じ売買を繰り返せば繰り返すほどパフォーマンスは落ちる一方になってしまいます。

値動きの性格が変化するのは、その銘柄に対する市場参加者の捉え方の変化の現れと考えられます。

ですから、たとえば、サプライズの業績発表が出て人気化したり、業績やその会社の経営に対する評価を大きく変えるような出来事が起きたりすると、値動きの性格が豹変する事態にもなります。

端的な例が、東日本大震災以後の東京電力(9501)でしょう。

赤は「引値が前日比上昇なら大引けでロング、前日比下落なら大引けでショート」という売買を2000年初以降のデータで検証した累積パフォーマンスです。、

2003年以降、累積パフォーマンスは右肩下がり、つまり、この銘柄の値動きは「上がった日の翌日は下がる、下がった日の翌日は上がる」という逆張り型で、上がったら売る、下がったら買う、という逆張り売買が有効だったことを意味します。

それが、大震災後はグラフが棒立ち状態、すなわち、上がったら買う、下がったら売る、という売買が強烈に奏功する“超絶順張り型”に一変しています。連日S安だったので当然といえば当然ですが、それまで通りの「下がったら買う」の逆張り売買をしていたら、7年超にわたって蓄積してきた利益がただちに吹き飛ぶどころか、それでもなお余りある大損失を抱える状況になっていたところです。

一方、緑のグラフは「225先物が前日比上昇なら東電を大引けでロング、225先物が前日比下落なら東電を大引けでショート」という想定売買のシミュレーション結果です。こちらは2000年からパフォーマンスがずっと右肩下がり。つまり、市場平均が上がるとこの銘柄が売られやすい、市場平均が下がるとこの銘柄が買われやすい、という“市場平均に 対して逆張り”型の性格だったのですが、その性格も震災を機に一転した様子がうかがえます。

ちなみに、これほど極端ではありませんが、他の電力株も、それまでの逆張り型の値動きが順張り型に変わっています。

問題は「一時的な変化」か否か

これだけ強烈な変化が現れたとなれば、もはやこの銘柄は「上がったら買う、下がったら売る」の順張り売買で攻めたほうがいいのでしょうか。

先ほどのグラフ1をもう少し詳細に見てみましょう。

2009年以降の短期の累積パフォーマンスを見てみると、赤の「引値の前日比上昇下落シグナル」については、実は2010年半ば辺りからすでに順張り傾向が出ています。その理由はわかりませんが、この銘柄の値動きの“順張り化”は、震災の影響で突如出たものではなかったということです。

これに対して、緑の「225先物の前日比上昇下落シグナル」のほうは、確かに震災による影響で順張り化したといえるかもしれません。ただ、グラフの棒立ち具合は「引値の前日比上昇下落シグナル」よりもはるかに弱く、3月20日過ぎ以降は再び“市場平均に逆張り”的な動きを見せています。

それまで奏功してきた売買システムがある時からパフォーマンスを落とす一方になるのは、値動きの性格の変化を示唆するものではあります。が、それが一時的なものであれば、基本的な売買スタンスはそれまでと同じで差し支えない、という話になります。

果たして東電の場合、震災後の値動きの性格の変化は一時的なものなのか、それとも根本的に変わってしまったのでしょうか。

現時点でそれを判断することはもちろん不可能ですが、これまで「下がると買われる、上がると売られる」という逆張り型の値動きの背景のひとつは、この銘柄が高配当であったことがあると考えられます。その非常に大きな銘柄特性が、原発問題によって失われる可能性は濃厚です。

他方、市場平均に対して逆張り的な値動きをしてきた一因としては、公益セクターという、ディフェンシブ銘柄としての位置づけがあるのは確かでしょう。この事業内容の特性は、経営破綻したりすれば別ですが、変わったわけではありません。

こうした点も考え合わせると、当面は「引値の前日比上昇下落シグナル」に対しては順張り型、「225先物(市場平均)の前日比上昇下落シグナル」に対しては逆張り型、という想定で、様子を見ながら売買してみるのも一策ではないかと思われます。

中長期的に明らかな変化が確認される例

個別銘柄の値動きを調べてみると、東電のように、何か大きな出来事があって突如値動きの性格が豹変したわけではないけれども、中長期的にみればある時期を境として顕著に変わっている例に時折出くわします。

上は、東映(9605)について「引値が前日比上昇=大引けでロング」「引値が前日比下落=大引けショート」という順張り売買を検証してみた結果です。

2001年から2005年まで累積パフォーマンスの推移は右肩下がりですから、この銘柄は「上がったら売る」「下がったら買う」の逆張り売買が有効だったことがわかります。

ところが、2005年以降、その右肩下がりは止まり、“底値もみ合い”的な推移を経て、2006年後半からは、基調は明らかに右肩上がりになっています。逆張り売買が有効だったこの銘柄の値動きの性格は、この時期を境に、順張り売買有効に変化したということです。

それほど派手な材料が出るような銘柄でもなく、ましてやこの時期に何かサプライズがあったわけでもありません。もし、この銘柄を逆張り売買で長らく手掛けていたとすれば、この変化の当初は、パフォーマンスの悪化も一時的なものだろう、と解釈しそうです。

そして、少なくとも2007年初までは、それまで逆張り売買で稼いできたパフォーマンスがただちに悪化することもなかったので、そのスタンスを続けていたに違いありません。

しかし、その逆張り売買は2007年から2009年初までの2年間で200%もの損失を出すこととなり、2001年から2005年までの利益は全部吹き飛んでしまいました。

このように、パフォーマンスにただちには影響しなかった値動きの性格の変化が、中長期的には甚大な影響を及ぼす例もあります。

それまで有効だった売買システムのパフォーマンス動向に変化の兆しが見えた場合には、それが大きな変化でなかったとしても、ポジションのサイズを落とすなり、一旦売買を休止するなりして、注視・警戒姿勢を取っておきたいところです。

それにしても、この銘柄の値動きの性格の変化の背景は何なのでしょうか。

中長期の株価チャートを見てみると、2007年辺りを境に、売買高の水準が低下していることに気付きます。

また、株価の推移自体は、2005年までは上昇トレンド、2007年以降は下降トレンドです。

一概には言えませんが、売買が活発で株価が上昇基調にある局面は、値動きは順張り傾向、売買が不活発になり“不人気化”すると値動きは逆張り型になる例のほうが多いのですが、この銘柄は逆に、逆張り売買が有効だったものが順張り売買が有効に変化しています。

想像するに、この銘柄を手掛ける市場参加者の顔ぶれが変わったのかもしれません。

たとえば、それまでは「映画」という成熟産業という視点で捉えられていたものが、2007年辺りからは、不動産関連のような市況性の対象として意識する参加者が主体となったとすると、逆張り型から順張り型に変化することも考えられます。

あるいは、逆張り売買志向の強い多様な個人投資家は去ってしまい、「この銘柄はこういう売買する」という方針に基づいて取引を行う、一部の限られた市場参加者によって株価が形成されるようになっている可能性もあります。

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