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『日本一やさしい 高利回り債券の見つけ方』

【個人向け国債】適用利率アップの「変動10」。この夏、有利なアクションとは?

夏の個人向け国債「変動10」。適用利率は0.77%

6月3日、7月発行の「夏の個人向け国債」の条件が発表されました。

このところの金利低下で売れ行きが悪いことに対するテコ入れなのか「変動10年年」「固定5年」「固定3年」の3タイプにそれぞれ愛称をつけたようです。「10」「5」「3」をもじったネーミングは財務省が考えたのか、代理店のご提案なのかわかりませんが、売れ行き改善に意欲を燃やしている感じです。(サイトの体裁も大リニューアルし、親しみやすさ的なものを前面に出しています)

そうしたリニューアルはさておき、今回の目玉は、とにかく「マウンテン変動10」の商品性の見直しでしょう。

「変動10」は、まず新規の発行条件が示されるときに、その時々の10年物国債の市場実勢を「基準金利」として、それをもとに当初の適用利率が決められます。

その利率は、6ヶ月後の利払い時まで適用され、その次の6ヶ月の適用利率は、またその時々の10年物国債の市場実勢に応じて見直されます。

その適用利率の計算方法ですが、これまでは「基準金利−0.8%」という引き算方式だったものが、今回の35回債から「基準金利×0.66」という掛け算方式に変わりました。

今回の35回債の基準金利は「1.17%」です。従来の引き算方式であれば、適用利率は0.37%(税引き前)のところ、掛け算方式になったことから、「1.17%×0.66」の0.77%となっています。水準自体は低いとはいえ、2倍以上の大幅アップです。

ちなみに、基準金利が2.35%以下であれば、引き算方式よりも掛け算方式のほうが適用利率は有利になります。

この“お得になった”マウンテン変動10、35回債は投資対象としてどうなのでしょうか。

それを考えるために、まずは国債の利回りの推移をチェックしてみましょう。

赤線が5年物(右目盛り)、青線が10年物(左目盛り)です。2008年の夏以降、トレンドが右肩下がりになっていることがわかります。

この1年で言えば、昨年10月初めに10年物の利回りは0.848%にまで低下し、その後は上昇基調になったものの今年2月半ばの1.352%で頭打ちとなって再び下落。現状の1.1%台水準は「まだ下げの途中」のように見えます。

「<日本一やさしい>高利回り債券の見つけ方」でも紹介している通り、変動金利型は金利低下局面では適用利率が下がっていきますから不利です。

とはいえ、償還までの期間が10年もあることを考えると、頭ごなしに「不利だから絶対に買うべきでない」と断じることもできません。仮に、半年か1年くらい金利低下が続いたとしても、その後に金利が反転すれば、大して不利ではなくなる可能性もあります。

たとえば、10年物の国債利回りが昨年10月の0.848%を割り込んで、0.8%になったとします。そのとき、「変動10」の適用利率は「×0.66」ですから、それでも0.5%以上はあります。

さらに、日本の財政事情からすれば、今後10年の間に、国債が大幅に値を下げ、金利が大幅に上昇する状況も予想できないものではありません。今回の基準金利「1.17%」は、短期的には「金利低下の途中」ではあっても、中長期的に見れば「金利の大底圏」であるかもしれないのです。

となれば、リスクを取れない資金、安全性を最重視したいお金の運用先としては、この夏の「変動10」は検討して悪くない選択肢といえます。とくに、金利上昇やインフレがライフスタイルにとって逆風となる人、たとえば、住宅ローンを変動金利で借りている人や賃貸住まいの人などにとっては、「変動10」がそのリスクをヘッジする手段にもなります。

ただし、現状が「金利低下の途中」である可能性も考慮することは必要です。よって、購入するとしても安全運用資金の一部にとどめて、もし、秋以降の個人向け国債の適用利率がより低下したときに買い増しができる余力を確保しておくほうがよいと思います。


1年以上前に買った「変動10」は“特約”発動も視野に

ところで、今回から導入された適用利率の計算方法、「×0.66」の掛け算方式は、今年7月に新規発行される個人向け国債から採用されるもので、それ以前に発行された「変動10」の半年ごとの適用金利の見直しの計算方法は、従来の引き算方式のままです。

そうすると、本来であれば、新規発行の「変動10」の適用利率と、そのときに見直しが行われる既発の「変動10」の以後6ヶ月の適用利率は同じであるはずが、今回以降、新規発行の適用利率と、今年6月以前に発行された既発債の適用利率に少なからぬ差が生じることになります。

たとえば、今回、新規発行される「変動10」35回債の適用利率は前述したように0.77%です。これに対して、過去に発行された「変動10」の奇数回債(利払いが7月と1月に行われるもの)の適用利率は「0.37%」。基準金利が1.17%で、そこから従来通り0.8%分が引き算された利率です。その差は実に0.4%もあります。

制度が現状のままである限り、過去に「変動10」を買った人は延々と、償還まで、適用利率の見直しが行われるたび「基準金利−0.8%」が採用されてしまいます。

先にも述べた通り、基準金利が2.35%以下ならば、掛け算方式のほうが有利、引き算方式は不利です。しかも、金利水準が低いほど、引き算方式の不利度合いは大きくなります。

ということは、過去に「変動10」を買った人は、基準金利が2.35%以上にならない限りは、延々と、償還まで、この不利な状況に甘んじなければならないのでしょうか。

そんなことはありません。

その策となるのが、個人向け国債ならではの特性、すなわち「元本割れせずに中途換金できる」という特約です。

「変動10」の場合、原則、新規発行から1年を経過すれば中途換金することができます。

換金時の受け取り額は、「額面金額+経過利子相当額−(直前2回分の利子額×0.8)」。この「直前2回分の利子額×0.8」は中途換金調整金と称されるもので、これが換金時に受け取る元本部分から差し引かれます。

たとえば、新規発行から2年3ヶ月後(182日後)に中途換金したとします。この間、受け取る利払いは4回、そのうち、3回目と4回目に受け取った分は換金時に返済するような格好になります。

他方、4回目の利払い後に保有していた182日分に相当する利子は、経過利子として受け取ることができます。経過利子は、その時点で適用されている利率を日割り計算します。

この仕組みからすると、もし、次の6ヶ月間適用される引き算方式による利率よりも、「新規発行の変動10の適用利率(掛け算方式)の6ヶ月分+受け取る経過利子額−中途換金調整金額」の率が高いのであれば、以前買った変動10は中途換金して、適用利率が掛け算方式の新規発行の変動10を買うほうが有利、ということになります。


乗り換えたほうが有利になるのはどんな状況なのか

1年以上前に「変動10」を買った人が、今回の35回債を買い、それと引き替えに、持っている「変動10」を次の利払い日の7月15日の直前、たとえば7月8日に中途解約したらどうなるか。過去の「変動10」の適用利率から調べてみました。

上の図は2008年7月発行の23回債の各利払い時における適用利率です。

仮に、今年の7月8日に中途換金する場合、その際に元本から差し引かれる2回分の利子(中途換金調整金)は、4回目と5回目の利払い分。それぞれ期間は6ヶ月ですから、実際に受け取るのは税引き後の表示利率の2分の1。そうすると、差し引かれるのは率にして0.372%分です。

一方、受け取る経過利子は非課税なので、税引き前の利率0.39%の「174日分」になります。およそ0.186%です。

この経過利子分と差し引かれる0.372%分を相殺すると、元本から差し引かれるのは約0.186%分と計算されます。

新規発行の「変動10」35回債の適用利率は0.77%、税引き後で0.616%です。6ヶ月後の来年1月に受け取るのはその半分の0.308%ですから、中途換金で差し引かれた0.186%分はこの1回の利払いで取り戻すことができ、さらに、0.122%分プラスが出ます。

これは悪くなさそうな感じがします。

が、もし中途解約しなかったとすると、来年1月に受け取る利率は税引き後0.296%の半分の0.148%です。

つまり、以前に変動10を買った人は、これからの半年間に適用される利率が低くても、中途換金して掛け算方式の35回債に買い換えるよりはそのまま餅続けていたほうが有利、ということです。

では、次回の適用利率が決まるとき(今年12月予定)、どんな状況であれば、中途換金して新規発行の変動10に乗り換えたほうが有利になるのでしょうか。損益分岐点を計算してみましょう。

まず、中途換金調整金として差し引かれる「直前2回の利払い分」の適用利率は、税引き後で0.384%と0.312%。1月10日に中途換金すると想定とすると、受け取る経過利子分は0.37%の178日分で約0.18%です。

ここから適用利率のもととなる基準金利を計算すると、1.11765%となります。

つまり、以前に買った変動10で、利払い月が7月と1月の人は、来年1月発行の変動10の基準金利が1.117%以下ならば、特約発動で中途換金して新発債に買い換えを、という結果です。

ただし、個人向け国債の適用利率には「0.05%」という下限が設定されているので、引き算方式の適用利率は、基準金利が0.8%よりいくら低くなっても0.05%以下にはなりません。これに対して、掛け算方式では、基準金利が0.076%までは適用利率が下がり続けます。基準金利が0.8%を下回ると、掛け算方式に対する引き算方式の不利さ度合いが薄れていくわけです。

この点も加味すると、「特約発動で中途換金→新発債に買い換え」が有効になるのは、基準金利が0.8%から1.117%の範囲内、ということになります。

一度買い換えてしまえば、以後は、基準金利が2.35%以下であれば、中途換金せずに保有し続けて引き算方式が適用されるよりも有利な状況が継続します。

有利に買い換えるチャンスを逃さないようにしたいところです。


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