国内には、株式とともに日々見ておきたい巨大マーケットがあります。日本国債の市場です。財務省が事あるごとにアピールしているように、日本の借金残高すなわち普通国債の発行残高は700兆円を超えるまでに膨らんでいます。この700兆円とは、日本国債の市場規模でもあります。東証1部の時価総額が5月現在で400兆円程度ですから、国債市場がいかに大きいかがわかると思います。
その日本国債市場が2013年4月から大荒れの様相を呈しています。
4月4日にK田日銀総裁が新たな金融緩和策を発表したことから債券価格が急落。利回りが跳ね上がっているのです。債券価格の下落があまりに大きすぎて、国債の先物市場では、4月、5月の2か月間に売買停止になるという事態が数回起きています。
「日本国債は大暴落する」「金利が急騰して超インフレになる」といった論調は、「円が暴落する」論とともに時折出てくるものですが、それが現実になるか否かはさておき、この「金利の上昇」というマーケットの動向もまた、信用取引の売買に活かすことができます。
具体的な売買の前に、債券価格と金利の関係を再確認しておきましょう。これがかなり重要な意味を持ちます。
たとえば、額面金額100万円、表面利率3%で発行された債券があるとします。この債券を100万円で買った人は、毎年3%に相当する3万円の利子(クーポン)を受け取り、償還時には100万円が戻ってきます。利回りは、表面利率と同じ3%です。
債券は償還までの間、その時々の需給によって価格が上下します。たとえば、額面金額100万円・表面利率3%で発行された債券の価格が103万円に上がったとします。この債券を103万円で買った人もまた、毎年受け取る利子は3万円。償還までの期間が5年あるとすると、受け取る利子は合計15万円です。他方、償還時に戻ってくるのは100万円ですから、買った値段103万円との差額3万円の損失が出ます。受け取った利子の合計15万円から償還時の損失3万円を引くと、103万円で買った債券が生み出した利益は5年間で12万円。1年あたり2万4000円の利益ですから、利回りは「2万4000円÷103万円」で2・33%と、額面金額100万円で買った人よりも低くなります。
同じ債券を額面よりも安い97万円で買った場合はどうでしょうか。この人も毎年3万円ずつ、5年間で15万円の利子を受け取ります。さらに、償還時には100万円が戻ってきますから、ここで3万円の差益が出ます。そうすると、97万円で買った債券が生み出した利益は5年間で18万円。1年あたりの利益は3万6000円です。よって、利回りは「3万6000円÷97万円」で3・71%。額面金額100万円で買った人よりも利回りは高くなります。
このように、価格が上がると利回りは下がり、価格が下がると利回りは上がる、というのが、債券価格と利回りのメカニズムです。
では、債券価格はなぜ上がったり下がったりさせる要因は何かというと、そのひとつが、先行きの金利動向です。
債券価格が額面金額と同じ100万円で表面利率3%の債券を買ったあと、これから金利が上昇することが確実視される状況になったとしましょう。この「額面金額100万円・表面利率3%」で買った債券の償還までの期間は5年あるとします。他方、これから新規で発行される5年債が、たとえば「額面金額100万円・表面利率4%」になるとしたら、「表面利率3%」の国債を持ち続けていては不利な運用になってしまいます。持ち続けていても毎年3万円の利子しかもらえないのに対して、新規で発行される「表面利率4%」を100万円で買えば、毎年4万円を受け取ることができるからです。
となれば、「表面利率3%」という不利な債券は売ってしまおうという人が増えます。売られれば価格は下がります。どこまで下がるかというと、理論上は「残存期間5年で表面利率3%の債券の利回りが4%になる価格」までです。これを計算すると、「表面利率3%」の債券の価格は、95万8333円に値下がりします。「表面利率3%」の債券をこの価格で買った人は、毎年3万円の利子と、償還時に買った債券価格との差額を受け取ると、利回りは4%になります。
逆に、これから金利が下がることが確実視される状況になると、すでに発行されている債券のほうが高い金利で有利に運用できることになります。よって、債券は買われて価格は上昇します。
通常の債券は、償還時に戻る額面金額と表面利率、償還までの期間が予め決まっています。、そのため、償還までの間に市中の金利が動く状況になると、その金利水準に見合った利回りをめがけて売られたり買われたりして価格が上下します。
日本国債は「暴落する」「暴落する」と言われ続けながらも、現実にはゼロ金利政策の中で買われに買われて値上がりし続け、指標銘柄とされる10年物国債の利回りは実に0・4%台にまで下がっていました。その流れが日銀の新たな政策によって変わるのではないか、という憶測が拡がっていることが、このところの利回りの上昇および債券価格の下落の背景のひとつと見られます。
また、2003年以降の日経平均株価と10年国債の利回りを照らし合わせてみると、景気がよく、株価の上昇トレンドがはっきり出ている局面では国債の利回りも上昇基調、株価の天井圏では利回りも高水準となっています。この点からすると、2013年5月の連休明け後から数日、株式市場が極めて強い上昇を見せたことも、債券価格が急落し利回りが急上昇したことと関係がありそうです。
実際にこれから金利が上がるのか、上がるとすればどのくらいまで上がるのかは定かではありませんが、もし、これまで下降トレンドを続けてきた金利が上昇トレンドに変わったとしたら、どんなことが起きるでしょうか。
まず、債券価格は下がり続けることになりますから、これまでの超低金利の中、国債を高値で大量に買い込んできた人は含み損状態を余儀なくされます。償還時に額面金額が戻るとしても、買ったときの債券価格が“すっ高値”で、償還時に出る差損が受け取る超低率の利子合計よりも大きければ、最終的にマイナス運用になってしまいます。
それに該当するのではないかという疑念を持たれる可能性があるのは、たとえばメガバンクです。つまり、金利の上昇および国債価格の下落は、メガバンクの株が売られやすくする一因といえます。
<その3>で見たように、メガバンクの株価動向はTOPIXに対して大きな影響力を持っています。ということは、メガバンクの株が売られればTOPIXは上がりにくくなります。つまり、金利が上昇したときには、TOPIX連動型のETFの「売り」が一策として考えられます。
もうひとつ、REIT(不動産投資信託)指数に連動するETFの「売り」も検討に値しそうです。
不動産に投資するファンドであるREITは、ファンドの元本部分は不動産市況によって価値が増減し、分配金については債券などの利回りとの比較で増減します。つまり、元本部分は不動産セクターの株式に近く、分配金部分は債券い近い投資対象です。
これからの不動産市況にもよりますが、国債の利回りが上昇基調になったとすれば、REITもそれに応じて分配金の利回りが上がらなくてはならなくなります。とすると、金利が上昇すれば、債券が売られて価格が下がるのと同じように、すでに上場しているREITは売られてファンド価格が下がり、それによって分配金の利回りが上がる可能性があります。
REIT指数は、上場している個別のREITの値動きを示す指数ですから、個別のREITの価格が下がれば、指数も下がるはずです。そのときには、この指数に連動するETFも価格が下がるでしょう。ゆえに、「売り」が有効策というわけです。
REIT指数に連動するETFには、「NEXT FUNDS 東証REIT指数連動型上場投信」(1343・10口単位)と、「上場インデックスファンド・リート隔月分配」(1345・100口単位)の2つがあります。いずれも、日々の取引高は十分にあり、売買しやすいETFです。ただし、分配金が東証REIT指数連動型上場投信は年4回(決算日は2月・5月・8月・11月の各10日)、上場インデックスファンド・リートは年6回(奇数月の各8日)と、回数が多い点には注意してください。権利付き売買最終日をはさんで個別銘柄を信用売りしたときに配当金相当額を払うのと同じように、ETFでも決算日をはさんで信用売りをしていると、分配金相当額の支払い義務が発生します。