(1)税法上の扱いは「元本の払い戻し」
本書の中で、投資信託の「特別分配金」に関してかなりページを割いています。
少々しつこすぎるように思われたかもしれませんが、なぜそうなったかというと、特別分配金については批判が多く、それが「良いファンド、悪いファンド」を判断するひとつの指針のように言われることがあるからです。
本書の中でも紹介しているとおり、特別分配金は「元本を取り崩している」「タコ足配当だ」などと言われます。
また、税法上でも、特別分配金は「元本の払い戻し」という扱いになっていて、よって非課税です。
しかし、特別分配金を受け取った人は、実際に元本が払い戻されているのと同じなのでしょうか。
本書でも紹介しているように、あるとき支払われた分配金が普通分配金(課税対象)になるのか、特別分配金になるのかは、そのファンドを保有している人の個別元本金額によって違います。
たとえば、個別元本金額が9000円の人と、個別元本金額が1万2000円の人がいるとします。
そのファンドの分配前の基準価額が1万1000円で、分配金が1000円出て分配落ち後の基準価額が1万円になった場合、個別元本9000円の人は全額普通分配金で課税対象。個別元本1万2000円の人は全額特別分配金で非課税、そして分配金を受け取った後の個別元本額は1万1000円に下がります。
分配金は「そのファンドの投資対象が生み出す収益」を還元するもののはずですが、もし、特別分配金が元本の払い戻しであるとすれば、「個別元本9000円の人にはファンドの収益を還元しますが、1万2000円の人にはファンドの収益は渡しません。自分の個別元本の中から1000円分を取り崩してください」ということをやっていると考えなければなりません。
そんなことが現実にあり得るのでしょうか。
そもそも、税法上同じ扱いとされている「元本の払い戻し」とは何なのでしょうか。
基準価額が1万2000円(1万口あたり)のときに1万口購入した例で考えてみます。
その後、分配直前の基準価額が1万1000円になったところで1000円分だけ換金(損切り)した場合、換金した1000円のキャッシュが手元に入ってきます。これは損切りですから、当然非課税です。
当初の投資額1万2000円のうち、1000円分をキャッシュに戻したので、投資元本額は1万1000円。そして、残りの保有口数の時価評価額は1万円になります。
これならば、確かに投資元本を取り崩して、1000円というキャッシュを手にした、と言えます。
この行動と特別分配金をもらった人は同じなのでしょうか。
先ほどの個別元本1万2000円の人は、1000円の分配金を受け取り、個別元本金額は1万1000円に、分配落ち後の基準価額1万円が時価評価額になります。確かに同じようではあります。
が、基準価額が1万1000円で1000円相当額換金したのであれば、当初の保有口数1万口は909.09口減って、9090.1口になっています。
一方、いくら特別分配金が出ても、保有口数が減ることはありません。
ですから、基準価額が1万2000円に戻れば、1万口を保有している人の時価評価額も1万2000円に戻ります。
先の909.09口売却してキャッシュ1000円を手元に戻したケースでは、ファンドの基準価額が1万2000円に戻っても、残りの保有口数の時価評価額は1万2000円には戻りません。この場合の時価評価額は1万908円です。
たとえば、基準価額が1万1000円のとき、1万口の1口1口から0.1円分ずつ換金するという方法ならば、保有口数は1万口のまま1000円のキャッシュが生じ、そのキャッシュ分を除いた時価評価額は1万円になります。
特別分配金を受け取った人は、このような強制換金をさせられているのであれば、「元本の取り崩し」とも言えるでしょう。
しかし、このようなことをやっていいのならば、普通分配金の人も同じようにできるはずです。
個別元本9000円の人でも、分配前の基準価額が1万1000円のときに、保有する1口1口から0.1円分ずつを換金し、1000円のキャッシュを生じさせ、それを分配金として払い戻せば、保有している残りの分の時価は1万円です。
特別分配金が本当に「その人の元本の払い戻し」であり、そうしたことをファンドの運用会社が行ってもよいとなると、それはもはや「投資家から集めた資金を大きなファンドにまとめて、複数の投資対象で運用する」という投資信託ではあり得ません。
集めた資金で実際に投資はせずに、“ファンドに組み入れたもの”としてバーチャルの基準価額を算出し、それによって受益者の時価評価を行って、分配金は受益者から集めた資金から拠出する、といったこともできてしまうわけです。
これは投資信託ではなく、詐欺ファンドです。
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