(1)期間1年なら、9割近くは投資家が勝つ!?
『金融ビッグバン』(なんとも懐かしい言葉ですね)と称された金融制度改革が行われてから十数年。その間、様々な金融商品・サービスが個人にとって身近なものとなりました。
スワップやオプションといったデリバティブを組み入れた金融商品はその一例でしょう。『<日本一やさしい>高利回り債券の見つけ方』の中でも紹介していますが、FXや通貨選択型の投資信託もそうですし、いまの日本の超低金利では想像もつかないほどの高金利をつけている高利回り債券の多くもそれに当たります。
ただ、デリバティブ関連の中でもオプションが絡んだ金融商品で耳にすることといえば、「為替デリバティブ損失で倒産する中小企業が急増」とか「どこそこの自治体が仕組み債で大損失を出した」等々、被害損失の話ばかり。日経リンク債や他社株転換条項付き社債(EB債)など仕組み債案件の訴訟も未だにあるようです。
というわけで、仕組み債に対しては非難囂々、金融庁も販売規制を強化したりしているのですが、では、その悪名高き仕組み債はもはや姿を消しつつあるのか、というと、「むしろ逆」の感があります。大手証券会社は昨年後半辺りからかなり積極的に営業していますし、一時期は販売を控えていたネット証券でも取り扱いを再開するところが出ています。
そして、その売れ行きは悪くはない模様です。
最近の例では、8月22日、SBI証券が「期間1年、利率3%」という早期相関条項付きノックイン型の日経平均リンク債(発行体:ドイツ銀行ロンドン支店)の販売を開始しました。
提示されている利払いや償還の条件は、
といった内容です。
発行額が7億円と比較的少額であったこともあると思いますが、この日経リンク債、早々に完売していました。
このご時世、期間が1年で「利率3%」というのは、かなり惹きつけるものがある、ということでしょう。
日経リンク債をはじめとする仕組み債については、「投資するメリットがない」とか「絶対に買うべきでない」という論調が言わば定番化しています。中には、「投資家が必ず損をする商品だ」といった批判さえあるほどです。
とはいえ、「株のように高い値上がり益は期待できなくて構わない。そこそこまともな利息収入がもらえればいい」と需要があるのは確かであって、そうした人からすれば、仕組み債は視野に入れざるを得ない選択肢になっているのが現実ではないでしょうか。
そこでまず問題は、仕組み債は「そこそこまともな利息収入が欲しい」という需要を全く満たさない商品、すなわち、「買った投資家は必ず損する」商品なのか否か、ということです。
これを調べるために、取りあえず、早期償還条項が付いていない「ノックイン条項のみの日経リンク債」を想定し、1990年以降の日経平均株価のデータをもとに株価がノックイン水準にかかる確率はどのくらいなのかを検証してみました。
表2は、1990年1月以降の各営業日の日経平均引値を「当初価格」として、それぞれについて期間1年・2年・3年内の最安値が「当初価格」の何%の水準だったかを調べ、それをもとに「ノックイン水準」にヒットする確率を出してみたものです。
期間1年では、検証した日数5078日のうち、期間内の最安値が「当初価格」の70%以下だったのは1095日。割合にして21.56%です。つまり、過去の実績からすれば、「ノックイン水準が当初価格の70%」という期間1年の日経リンク債は、ノックインする確率が約2割。残りの約8割は「利息をもらい、ノックインせずに元本100%で償還した」ことになります。
ノックイン水準が「当初価格」の65%以下となると、それに当たるのは5078日中652日、12.84%に率は低下します。期間1年で「ノックイン水準が当初価格の65%」ならば、ノックインの確率は約13%、 残りの87%は「利息プラス額面100%償還」だったということです。
これに、早期償還条項が付けば、「ノックインする前に早期償還する」というケースが出てくるはずですから、ノックインの確率はもう少し低くなるものと予想されます。
この結果からすると、「元本は目減りせずに、そこそこまともな利息をもらう」という需要を満たせる可能性は決して低くはない、と考えても差し支えなさそうです。
「ノックインせずに元本100%で償還」を投資家の勝ち、「ノックインして元本割れ償還」を投資家の負けとするならば、「期間1年・ノックイン水準65%」の日経リンク債は、9割弱の勝率で「投資家の勝ち」です。あくまでも過去のデータに基づく結果ではありますが、少なくとも「投資家が必ず損する」という評価は事実ではありません。
次は、(2)「利率3%」は果たして許容範囲内の水準か、です。