今日販売されているノックイン型日経リンク債のほぼ全てに「早期償還条項」が付いています。ノックアウト条項などとも言われるものですが、本文でも紹介したように、この条項が付いていると、付いていない場合よりも「ノックインして償還」の確率は低くなります。ノックインする前に早期償還するケースがあるからです。
日経リンク債で損失を出すのはノックインしたときだけですから、その意味では、ノックイン確率を低減させる早期償還条項は投資家側にメリットを与えるものと捉えることができます。
ただ、早期償還すれば以後の利払いは受けられなくなり、受け取り利子の額は減ってしまいます。仮に、「年利率4%」と示されていても、最初の利払いで償還してしまえば、利払い回数が年4回なら1%分の利子しか受け取れません。
「3ヶ月で1%もの利子がもらえたのだからいいじゃないか」という話ではありますが、たとえば100万円で仕組み債を買った人は1年で4万円の利子がもらえることを期待していたはずです。それがわずか1万円で終わってしまうのは、おそらく不本意でしょう。
そこでどうするかというと、そうした早期償還に対応して、多くの場合、証券会社では新規発行の仕組み債を用意しています。早期償還のために利子が受け取れなくなっても、別の仕組み債を買えば新たな利子が受け取れます 。「早期償還したら新規の仕組み債に乗り換え」を繰り返していれば、継続して高い利子が受け取ることができるわけです。
定期的な金利収入が欲しい人からすれば、これは希望を実現する方法ではあるのですが、実は、この「早期償還→乗り換え」を繰り返しが大変な危険を孕んでいます。
償還期限にもよりますが、ノックイン水準が60%の場合、概ねノックイン確率は2割から3割程度です。大方はノックインせずに償還するわけですから、よほど相場が急転直下する局面で買わない限りは、ノックインすることはそうはありません。
とくに、相場が好調なときには「1回目か2回目の利払いで早期償還」となるでしょう。仕組み債を買った人からすれば、「ラクラク高い金利がもらえる」という状況です。
仕組み債のリスクを考えれば、本来なら「ノックインしないで償還してよかった」と思うべきところですが、あまりにもラクに高い金利がもらえる、ただし、いつも早期償還ばかりで受け取る利払いは1回か2回、という状況が続けば、「ちぇっ、今回も利払い1回でお終いか」などと考えかねません。
そうすると、ハイハイ次ね、とばかりに、当然の如く別の仕組み債に乗り換えやすくなってしまいます。
これを繰り返しているうちに、いずれは相場の天井がやってきます。つまり、相場の大反転局面に遭遇してしまうわけです。
その場合、もはや早期償還はしなくなり、希望通り、満期償還までの利払いはもらえるものの、株価はノックイン水準をつけて元本割れ償還、となる可能性ばかりが高まっていきます。
幸いにもノックイン水準をつける前に満期償還した場合には、その時の株価水準からすれば、「ここからさらに日経平均が4割も下がることはないだろう。となると、満期償還までの利払いをフルにもらうチャンスではないか」と、考えかねません。
そして再び乗り換え。ところが、株価は戻らず、さらに下落が加速して「ノックイン!」。というようなことも十分にあり得ることです。
ノックイン確率を低減するという意味では早期償還条項は利点ではあるものの、それによって手取りの利子の額が減り、さらには “乗り換え”への意欲を誘ってしまう、という意味ではデメリットと言っていいかもしれません。