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【デュアル債】「豪ドルリンク債」に注意報!

(1)期間1年でノックイン償還する確率はどのくらいなのか

個人向けのデュアル債はタイプさまざま

9月10日付けで日経リンク債について取り上げましたが、為替レートを対象とした「デュアル・カレンシー債」(以下、デュアル債と略します)もまた個人向けに多く販売されている仕組み債です。

デュアル債は80年代にはすでに個人向けに販売されていましたが、当時のデュアル債は、「利払い金は円で確定、償還金は外貨」という商品で、償還時に円高になっていると投資元本割れになる可能性がある、というものでした。

今日販売されているデュアル債の多くはこれとは異なり、基本構造は日経リンク債と同じ、対象通貨が対円でノックイン価格以下(つまり円高)にならなければ円で元本100%償還、ノックイン価格以下になると外貨で償還(償還元本は為替連動になる)、という商品です。

ただ、日経リンク債は、「償還までの期間中一度でも株価がノックイン価格以下になると償還元本は日経平均連動になる」のに対して、デュアル債は、償還日の数営業日前を「判定日」として、その日のレートがノックイン価格以下か、ノックイン価格より上かで償還元本が円か外貨かが決まる、というタイプが多いようです。この場合、償還までの期間中に対象通貨がどんなに対円で安くなろうとも、判定日にノックイン価格より高ければ、円ベースで元本100%償還、となります。

また、日経リンク債は早期償還条項(ノックアウト条項)が付いているのが一般的ですが、デュアル債では早期償還条項が付いていないものもよく見られます。

そのほか、早期償還条項が「当初価格より何円円安ならば」という条件ではなく、発行体の意向によって期限前償還できるという、コーラブル債になっているタイプもあります。このタイプは、期限前償還した場合には円ベースで元本100%、期限前償還せず満期償還の場合は外貨で償還、といった条件になっていて、ノックイン価格は設定されていません。


「期間1年・4%」の利率はもらいすぎなのか?

いずれのタイプのデュアル債でも、とにかく最近目立つのは豪ドルを対象としたデュアル債です。どこもかしこも豪ドル対象ばかり、という感じです。

そして、それらを見ると、ノックイン価格の水準も様々、早期償還条項がついていたり、いなかったりと、内容には違いがあるのですが、なぜか、「期間1年で年利率4%」という、同じ条件設定のものが目につきます。

ということは、同じ「期間1年・年利率4%」の豪ドル対象デュアル債でも、それぞれ有利不利があることになります。

たとえば、ノックイン水準が高ければ、それだけノックインしやすい、つまり、プット・オプションの買い手のリターンの期待値は大きくなるので、支払うオプション料も高くなります。デュアル債を買う投資家は、そのプット・オプションの売り手の立場ですから、受け取るオプション料に相当する利率は高くてしかるべきです。

にも関わらず、より低いノックイン水準を設定しているデュアル債と同じ「年利率4%」なら、それは投資家にとって不利なデュアル債、と解釈せざるを得ません。

そもそも、この「期間1年・4%」という豪ドル対象のデュアル債の利率自体は、デュアル債を買う投資家にとってどうなのでしょうか。現状の豪ドル建て外貨MMFの分配実績(年4.1%〜4.3%程度)よりはやや低い水準ではあるものの、デュアル債は仮に当初レートより円高になった場合でも、それがノックイン水準より円安であれば元本割れはしないのですから、その点からすると、円ベースで確定している「利率4%」は、そう悪くはないように見えなくもありません。

まず、大手A社で販売していた非常にプレーンな豪ドル対象のデュアル債を見てみます。

ノックイン価格は「当初レート(発行日の特定時間の豪ドル円レート)−13円」。判定日は償還日の10営業日前です。当初レートが1豪ドル=80円とすると、判定日のレートが1豪ドル=67円より円安ならば元本100%の円で償還、67円よりも円高ならば豪ドルで償還します。早期償還条項は付いていないので、約1年後の判定日の豪ドルレートがどうなるかだけが、このデュアル債の肝です。

そこで、1990年以降の豪ドル円レートのデータをもとに、それぞれの日を起点としてその1年後のレートはどのくらいだったかを調べ、それがノックイン価格以下だった確率、および、ノックイン価格以下だった場合の想定償還レートの平均を出してみました。これによって、ノックインした場合の(投資家側から見た)損失の期待値(平均)が求められます。

「年利率4%」は、その損失の期待値に見合う水準なのでしょうか。

※「ノックイン価格」とするレートは、このデュアル債の条件(当初レートから13円を引いたレート。当初レートを80円と想定すると、そこから13円を引いた67円)を参考に、当初レートの83.75%(67円/80円)としています。

このシミュレーションからすると、ノックイン確率は12.03%。88%は元本100%で円償還したことになります。デュアル債を買った投資家は9割近い確率で“圧勝”というのが過去の実績です。

ただし、ノックインした場合の償還レートは「当初レートの76.43%」。つまり、ノックイン償還したときの損失の期待値は「100%−76.43%」のマイナス23.57%ということです。

ちなみに、下のグラフの赤色になっている部分は、「ここで買ったとするとノックイン償還した」という局面を示しています。

そうすると、償還時の損失の期待値は「12.03%×23.57%」で2.835%。過去の為替レートからすれば、このデュアル債を買う投資家は2.835%の利率をもらえばリスク・リターンはトントン、ということです。

となると、このデュアル債の「年利率4%」は、投資家からすると“もらいすぎ”になってしまいますが、証券会社は自ら利益を削ってまで投資家に有利な条件を出していいのでしょうか。

そんなことがあろうはずはありません。

このシミュレーションは為替レートだけで確率や期待値を調べたものですが、実際の通貨オプションの価格計算は、ボラティリティーや2国間の金利差が加味されます。

対象国の金利が高く、日本との金利差が大きいほど、プット・オプションの価格は高くなり、また、ボラティリティーが高いと、やはりオプション価格は高くなります。日本とオーストラリアの金利差、それに、主要国通貨の中では豪ドルはボラティリティーが高いことを考えると、おそらくこのプット・オプションの価格は、先ほどの数字よりもはるかに高い水準と思われます。おそらく、年率換算で7%以上はあるでしょう。

ですから、このデュアル債の本来的な利率ももっと高くてしかるべきであろうことは間違いありません。心配しなくとも、証券会社はしっかり利益を確保しているはずです。


次は、(2)同種の仕組み債の新発多数は高値警戒感の表れか、です。

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