(2)同種の仕組み債の新発多数は高値警戒感の表れか
それでもまだA社のデュアル債は“良心的”なほうで、中には、ノックイン価格がだいぶ高いにも関わらず、「利率4%」のものも出ています。
たとえば、B社が販売していた豪ドル対象のデュアル債(期間1年)は、ノックイン価格が「当初レート−8.9円」とA社よりも高く設定されています。なお、早期償還条項は付いていない点もA社と同様です。
この場合、どのくらいノックイン確率は高くなるのか。先ほどと同じように、1990年からのデータで調べてみました。
ノックイン確率は2割以上。「8割は投資家が勝てる」ということではありますが、グラフにしてみると、ノックインに当たる局面がしばしば訪れていることがわかります。
ノックイン償還した場合の平均償還価格は、当初価格の80.655%ですから、損失は19.345%弱です。そうすると、このデュアル債の損失の期待値は「21.21%×19.345%」で4.103%になります。
デュアル債の表面利率4%からすれば、まぁトントンか、というところではありますが、先述のとおり、組み込まれているプット・オプションの価格はもっともっと高いはずで、おそらく8%程度はあるのではないでしょうか。そこから途中のコストが抜かれるのは仕方がないことですが、最悪でも、A社よりは高い利率でなければ割に合いわないのは、言うまでもありません。
そのほか、期限前償還条項付きのデュアル債も注意が必要です。
このタイプは、発行体が期限前償還にするか否かを決めることができます。為替レートが当初よりも円安方向に行ったら「期限前償還」にして、直後の利払い分と元本100%を返済してお終い、円高方向に行ったら償還せずに、円高で目減りした豪ドル資産を満期時に元本部分で買い取ってもらう、ということができてしまうのです。
これほど発行体に都合がよいようにできている債券なのですから、その分だけ利率は高く設定されるべきです。が、これまた「期間1年・年利率4%」だったりします。これも割に合いません。
それにしても、なぜ豪ドルを対象にしたデュアル債ばかりが出ているのでしょうか。その理由のひとつとして、ドルやユーロがあまりに弱々しいのに比べて、豪ドルは対円でしっかりした推移になっていることが考えられます。
グラフ3は、2000年以降の米ドル、ユーロ、豪ドルの対円レートの推移を指数化したものですが、“リーマン・ショック”後の反発の高値からドルやユーロは25%以上も値下がりしているのに対して、豪ドルは今年4月に直近の高値を更新しています。
オーストラリアが資源国であることや、豪ドルが高金利通貨であり、日豪の金利差が依然として大きいことがその背景といえますが、ただ、そのオーストラリアの高金利政策にも打ち止め感が出てきています。欧米の不景気が波及すれば、金利を引き下げる方向に政策転換しないとも限りません。それによって日豪の金利差縮小ということになると、為替レートに影響を及ぼさざるを得ません。
もちろん、この先、金利政策の転換があるのかどうか、為替相場がどうなるかはわかりませんが、豪ドルレートに対する高値警戒感は確かに市場に出ていると見られます。豪ドルを対象としたデュアル債の向こう側には、豪ドルの下落をヘッジしたい、あるいは豪ドルの下落を予測して利益をあげようとしている、豪ドルのプット・オプションの買い手がいます。デュアル債が多く出てきているのは、そうした需要が増えていることを反映しているとも考えられるわけです。
日経リンク債や他社株転換条項付き社債(EB債)もそうですが、相場が好調のときに同じような仕組み債が新規発行されている状況は、価格下落のヘッジ需要も高まってプット・オプションの買い手が増えていることをうかがわせます。一方では、その状況は、仕組み債を買う投資家にとっては早期償還しやすいもののノックインはせずに高い金利をもらいやすい、ということでもあり、証券会社も高金利を求める投資家に売りやすいはずです。
昨今、証券会社の広告などで「円高の今こそ外貨投資のチャンス」といったうたい文句も目にしますが、現状、円高ドル安、円高ユーロ安ではあっても、円高豪ドル安ではありません。少なくとも、ここ3年ほどの動きでいえば、むしろ豪ドルは高圏内と言えます。その点を十分意識したうえで、投資を検討したいところです。