【その後の情報】12月11日、「設定申込みの受け付の再開についてについてのお知らせ」が発表されました。18日の申し込み分から追加設定が可能になるようです。以前に指摘したNAV乖離はかなり解消しています。
上は、下の<図-01>のその後の推移です(12月22日まで)
野村アセットが10月14日に「一部ETFにおける設定申込みの受け付けの一時停止についてのお知らせ(コード:1357、1570、1571)」を発表しました。
10月16日から日経平均レバレッジ・インバース型の三つのETFについて設定の申し込みが停止されました(解約は出来る)。
それから約1月、11月11日時点で、
コード | 野村・Next Funds | 日々の日経平均の値動きに対して | NAV(一口あたりの純資産額) | 引値 | NAV乖離(%) | 純資産額(億円) | 日証金差引残高(口数) |
---|---|---|---|---|---|---|---|
1357 | 日経ダブルインバース指数ETF | × -2 | 2553 | 2710 | 6.15 | 433 | 387773 |
1570 | 日経レバレッジ指数ETF | × 2 | 16351 | 16300 | -0.31 | 8374 | 1353597 |
1571 | 日経インバース指数ETF | × -1 | 2234 | 2265 | 1.39 | 327 | 7961 |
インバースタイプが1倍型・2倍型ともにプレミアム状態となっています(NAV乖離がプラス。つまり、理論価格よりも取引価格が割高になっている)。この経緯をレバレッジETF(1570)でインバースタイプをリスクヘッジした場合の推移で見てみます。
まず、ダブルインバ買いと同金額のレバ買いのポジションを持ち続ける、という想定です。通常、ダブルインバ(×-2)はレバ(×2)よりも価格が劣化しやすいため、「ダブルインバ買い・レバ買い」のポートフォリオの価値はジワジワ目減りしていきます(つまり、損失が膨らんでいく)。ところが、追加設定停止後、ダブルインバの価格にプレミアムが発生したことから、グラフの形状が一転。急上昇、などという生ぬるいものではありません。爆上げ状態になっています。現在に至っても、このプレミアム状態に終息の気配はみられません。
次に、1倍型のインバース買いと半額分のレバ買いのポジションを持ち続けたケースです。
市場全体が上昇トレンドにある中では、インバ(×-1)の価格もまた、レバ(×2)よりも劣化しやすいわけでですが、追加設定停止後、プレミアムが発生しました。ただ、直近では落ち着く気配を見せているようです。
ETFに高プレミアムが発生した場合、貸借銘柄であれば空売りを行い、追加設定で売り玉をカバー(現物を買って空売りの現渡しに充てる)すれば、プレミアム分が稼げます(ただし、これは大口のみの売買です。手数料はかかります)。今は追加設定が停止されているので、空売り分は市場取引でカバーするしかありません(取引参加者(マーケットメーカー)といえども事情は同じです)。市場に売り物が豊富であれば、プレミアムの付いていない価格で買えますが、近年の上げ相場とインバースタイプが持つ減価傾向のため、売りを出せる(=売れば利益になる)ホルダーが限られていると見られ(信用残高は買い長であるものの)、どうやら売り物が少ないようです。それに加えて、今後もプレミアムが増大するであろう、という思惑買いも入っているのではないでしょうか。先物(および日経平均)が上昇すれば値下がりするはずの価格が下がらない。むしろ、値上がりしていたりします。
2倍連動型・2倍逆連動型ETFについては、『日経平均の読み方・使い方・儲け方』(日本実業出版社)の中でその値動きの性質を取り上げていますが、この「追加設定停止」という状況は全くの想定外でした。
追加設定の再開があればプレミアムは解消されると思われますが、その予定は未定です。そもそも設定が停止されたのは、ファンドの規模から見て先物市場の流動性に難が生じ始めた、という背景のようです。上げが続く相場であれば、レバレッジタイプは先物買いを更に買い増し、インバースタイプは先物売りの買い戻し、という需要を発生させます。この需要を引けの成り買いで賄おうとするとマーケットインパクトが大きいということでしょう。ましてやレバレッジの追加設定(追加を重ねて巨大ファンドになった)があれば買い需要はその分増えます。上げが続く状況では設定再開は望み薄であろうことが予想できます。
先物引けの成り買い需要が相当あると予想するならば、引け直前に買い上がって引けの成りで売却するという売買も成り立つかも知れません。15時の東証引け前後から15時15分の大証引けまでに先物価格が大きく動くことがありますが、レバ・インバETFの動向(というか思惑)が関係している場合もある可能性も考えられます。
冒頭の「お知らせ」のPDF資料には、「継続して東証に上場され、売買取引は、これまでどおり行えます。」と書いてありますが、特にダブルインバは「これまでどおり」とは違う取引状況になっています。今起こっている事態が了解できない場合は、取引を見送るのが安全かと思います。
レバ・インバ特性については、
などを参考にしてみて下さい。
ところで、追加設定を停止したETFはその後どういうことになるのでしょうか、その昔、米国市場でこんな出来事がありました。
【VIX指数ETF・その1】まずは“連動元”の指数を観察してみる
上記ページの下にある「(補足)2倍レバレッジのVIX ETNで問題発生?」を参照して下さい。
このページで紹介しているように、米国市場には、VIX短期先物指数に連動する「iPath S&P500 Short-Term Futures ETN」(ティッカー:VXX)と、VIX短期先物指数の2倍レバレッジ型の「VelocityShares Daily 2× ST ETN」(ティッカー:TVIX)があります。このとき問題視されたのは、後者のTVIXの値動きです。その様子を、「TVIXを買い、その2倍の金額分で1倍型のVXXを売る」というポジションを持ち続けた場合の推移で見てみましょう。
2012年にTVIXの追加設定が停止された後に価格が高騰し、VXXとの値動き差が一時ものすごいことになっていました。2倍相当額のVXXでヘッジをつけても50%近いプレミアム状態になっていたようです。それが、なぜか3割も値下がりした日の引け後、追加設定再開が発表されて、翌日、価格はさらに3割安。という経緯で、これが問題視されたわけです。
追加設定云々が関係ないところでは、ダブルタイプの特性が如何なく発揮されていることがわかります。TVIXは、1倍タイプ(VXX)でさえ減価が激しい値動きを2倍に増幅したETFです。何事もなければ、その減価の度合いは当然ながらVXXを大きく上回り、価格はみるみるうちに下がっていきます。
東証上場で、iPath VIX(2030)があります。売買単元は1口で、価格は90円前後です。国際のVIX(1552)ほどではありませんが、そこそこ人気のあるETFです。
このETFを1万口信用買いして権利日を跨いでホールドしていたところ、何と、コストが54万円かかった、という話があるようです。1口90円とすると、1万口で建て代金は90万円。その実に6割ものコストを取られるとは。証券会社の手違いだろう、と思いたくもなりますが、この超絶高額コストは現実に起こり得ます。
信用買いの場合、権利日を跨ぐと「権利処理手数料」がかかります。1単元にあたり消費税込みで「54円(但しETFは5.4円)」としているところが多いのですが、中には「但しETF」が抜けて、ETFでも1単元あたり54円という証券会社もどうやらあるらしいのです。信用の取引のコストとしては、建て日から1ヶ月を経過するごとにかかる管理費がありますが、これには通常、上限(1080円など)が設けられています。しかし、権利処理手数料には上限がないのが”通常“のようです。
分配金ゼロ前提のETFで「権利」などといわれても、いったい何の権利なんだ? という感じがしないでもありませんし、また、この銘柄の「権利日」が銘柄情報画面に出ていない証券会社もあります。そもそも、価格が90円にまで下がっているETFの売買単位を、価格が高かった当時と同じ「1口」のまま放置していること自体が解せません。それで「ハイ、1万口ですから54万円です」とされてしまうのはどうなのよ、という気もしてしまうわけですが、そういうお約束になっています、と言われれば、どうしようもありません。
もう一つ、ETFの逆日歩はとんでもなく高いことがある、ことにも十分注意しておきましょう。インバETF(1570)は上場間もない2012年に、55円の逆日歩がついたことがあります。レバETF(1570)は2014年9月に70円×3日、2015年2月に65円×3日といった高逆日歩がついたことがあります。価格の安いVIX(2030)でも逆日歩が立つと通常5円(1万口ショートしていたら1日5万円!)、VIX(1552)は2014年10月に120円という逆日歩がついたことがあります。さらに、VIXモノは逆日歩が続くと程なく売り禁にされてしまいます。
個別銘柄とは違って、証券の貸し手が限られているETFでは、貸し手の言い値(最高料率)で逆日歩が決まってしまうことが珍しくありません。値幅は十分取れているのにコストのお陰で結局大損した、などということにならないよう、極力気をつけたいところです。