残存10年債利回りは5%目前に。
『<日本一やさしい>高利回り債券の見つけ方』の通貨スワップの話の中で、「もしも東電がレアル建て債券を発行したら…」といった例を出しています。
この原稿を書いていた当時、東電債の格付けは国内最上ランク、利回りは国債プラス0.1%か0.2%程度という、極めて低い水準でした。
それほどの低利回りでも機関投資家はこぞって買っていた、などという姿は今や見る影もありません。
「電力株・債券の動き」を掲載した5月20日時点では、利回りは国債プラス3%前後。残存期間が約10年の556回債(2021年7月16日償還)は単利ベースで4.366%(債券価格80.74)でしたが、その後も債券価格の下落は止まりません。その10日後の5月30日、同じ556回債の債券価格は79.30まで下がり、利回りは4.632%に上昇しています。
さらに追い打ちをかけたのが、この日発表されたスタンダード&プアーズ社の格下げです。辛うじて「BBB」で投資適格を維持していた債券格付けは「BB+」の投資不適格ランクに、長期会社格付けに至っては「BBB」から「B+」へ、6段階も引き下げられています。
大震災前には想像だにできない状況ではありますが、原発事故後の対応、政府の姿勢、予想される損害賠償の数々を見れば、この格下げを「外資の陰謀だ」などと言う人はあまりいないと思います。
格下げを受けて、翌日31日の店頭売買価格はボロボロだった模様です。
日本証券業協会が日々公表している「公社債店頭売買参考統計値」によると、31日の東電556回債の店頭売買価格(平均値)は、前日比1.31安の77.99。利回りは4.877%にまで跳ね上がっています。
期間が1年未満のものでも、利回りは3.3%台〜3.4%台と、目先の利払いですら疑われていることは間違いありません。
「残存1年未満でも3%台半ば」という東電債の利回りは、上場企業の発行する債券の中では破格に高いのは言うまでもありません。
とはいえ、公社債店頭売買参考統計値を見ると、中には東電債と同等レベル、あるいはそれ以上に高い利回りを出している社債も、わずかですが存在します。
いずれも消費者金融です。
これらの利回りを比較してみると、東電の信用力に対する市場の評価は、短期的には「プロミスよりは上だが、アコムよりは下」といったところでしょうか。
もし、金融機関に債権放棄を要請する話が現実味を帯びてくる事態になれば、評価は“アイフル並み”か、それ以下にならないとも限りません。
それにしても、「公社債店頭売買参考統計値」に載っている銘柄数の多さには今さらながら驚かされます。1日分のデータはPDF表示で158ページ、1ページあたり44銘柄ですから全部で7000銘柄近くにのぼります。これが、機関投資家など大口投資家の間で流通している国内の公債・社債ということです。
そのうち民間企業が発行する社債は約50ページ分、2000銘柄超です。それに比べて、同じく日本証券業協会が日々公表している個人向け社債の店頭気配値情報に掲載されている銘柄数が、わずか56銘柄とは…。個人が直接買える社債がいかにごくごく一部でしかないか、改めて実感させられます。
たぶん、「個人がいろいろな企業の社債を買いたいなら、国内債券で運用する投信を買っておけ」ということなのでしょう。
確かに、投信ならば多数の国内債をまとめ買いするのと同じ効果が得られるうえ、少額でも投資可能です。安定的な資金運用を考えている人にとっては重要な選択肢であり、また実際に、そうしたニーズを反映して高い人気を集めている国内債券型のファンドもあります。
が、このタイプのファンドのほとんどは、おそらく東電債が組み入れられているはずです。東電債は個人には販売されていない債券ですから、今回の「格下げ→信用不安」の影響も個人は直接受けていませんが、買っているファンドの基準価額の下落という形で損失を被る可能性もあるわけです。
東電債がファンドの基準価額にどう影響するのかは、各ファンドの東電債の組み入れ度合いによって違ってきます。
たとえば、昨年半ばから急速に純資産額を拡大させてきた毎月分配型の「ニッセイ日本インカムオープン」(運用:ニッセイアセットマネジメント)が5月11日に出した月次レポートに東電債に関する記述があります。要約すると、
・ このファンドは618銘柄に分散投資されている。
・ 4月末時点での東電債の組み入れは16銘柄、組み入れ比率は2.5%である。
・ 現時点では東電債の利払いや償還に支障をきたすことはないと考えている。
という内容です。
組み入れ比率が2.5%というのは、「影響は軽微」との印象になるかもしれませんが、年限がどのくらいのものがいくら組み入れられているかなど、投資対象の詳細も運用報告書でチェックしておきたいところです。
これ以外の国内債券型の投信を持っている人も、東電債の組み入れ比率がどのくらいか、その中身はどのようなものかを運用報告書や月次レポートで再確認してみてください。さらに、基準価額の推移や今後の運用状況も引き続き注視しておくことをお勧めします。
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