東洋経済オンラインに寄稿した『2012年株式市場は個人投資家に勝機あり<上>』(1月31日掲載 )で、1986年以降の日経平均株価の推移と、高値更新銘柄数・安値更新銘柄数の動向を示したグラフを掲載しました。
その中で、「株価指数は上がっているのに、安値更新銘柄数が増えている」「株価指数は下がっているのに、高値更新銘柄が目立っている」という、株価指数と個別銘柄の動向に温度差がある局面について述べています。
ここで、改めてそのデータを紹介しましょう。
2000年以降の日経平均株価、および高値更新銘柄・安値更新銘柄です。
ITバブルから2003年4月までの下落相場の様子を見ると、当然ながら、安値更新銘柄のほうが圧倒的に多い状況になっています。ただ、その最後の安値(2003年4月28日)近辺の安値更新銘柄数は大幅に減少し、むしろ高値更新銘柄のほうが目立ちはじめています。
このような状況は、株価指数は下がっていても、市場の実勢としては「下がる力」が弱まっている、むしろ「上がる力」の勢いが増していると解釈できます。これは、「先行きの強気シグナル」と捉えていいでしょう。
これとは対照的なのが、2006年後半からの動向です。
2003年4月に日経平均株価は反転し、以後、2006年までは圧倒的に高値更新銘柄のほうが目立っています。ところが、2006年後半から、パッタリと高値更新銘柄が増えなくなり、“押し目”的に株価が下がると安値更新銘柄ばかりが増加するという傾向が、顕著に表れています。日経平均株価は2007年7月に最高値をつけていますが、その頃、高値を更新する銘柄はごく限られていた、ということです。
これは、日経平均は上がっていても、もはや個別銘柄の「上がる力」は衰えていて、「下がる力」のほうが増している状況、すなわち「先行きの弱気シグナル」と考えられます。
ちなみに、グラフ1は「過去1年来」の高値更新・安値更新銘柄数ですが、データの検索期間を、たとえば「過去6ヶ月来」「過去3ヶ月来」とすることも可能です。
<グラフ2>過去6ヶ月来傾向としては、過去1年来のグラフと同様ですが、期間を短くすると感応度がより高くなります。反面、大きなトレンドは判別しにくくなります。
この高値更新銘柄数・安値更新銘柄数、相場状況を把握するうえでかなり活用できそうです。
そこで、これを指数化してみました。
「指数化の計算式」は、
です。高値更新銘柄数と安値更新銘柄数が同数ならば、この指数の値は「100%」になります。中立的な基準を100としたのは、計算上、ゼロで割り算をするのを回避するためです。
高値更新銘柄数が安値更新銘柄数よりも多ければ、指数の値は100%より大きくなり(最大200)、安値更新銘柄数が高値更新銘柄数よりも多ければ、指数の値は100%より小さくなります(最小0)。
この指数をとりあえず、“高値安値インデックス” と称することにします。
グラフ4は、大底をつけた2003年4月以降の日経平均株価と、高値安値インデックスの推移です(高値更新・安値更新は過去1年来)。
2006年の途中から、高値安値インデックスはほとんど100より下の推移になっています。この状況、「日経平均は上がっていても、自分の持ち株は値下がりする一方だ」という投資家が少なくなかったことを意味します。
“リーマン・ショック”の暴落後、2009年から直近まで、約3年間の動きでは、日経平均が高値をつける局面では確かに高値安値インデックスは100より上にくるものの、日経平均が下げたときの下ブレのほうが大きい傾向がうかがえます。日経平均は取りあえず反発していても、個別にはまだ安値を見たとは言えない動きをしていた銘柄がそれ相応にあったわけです。
では、日経平均株価とこの高値安値インデックスとは、一体どんな関係になっているのでしょうか。日経平均株価の前日比上昇下落率と、高値安値インデックスの日々の上昇下落率との相関を調べてみました。
<グラフ5>前日比上昇下落率:日経平均株価(X) と 高値安値インデックス(Y)回帰直線は右肩上がりですから、「日経平均が上昇すれば、『高値銘柄数−安値銘柄数』は増える」「日経平均が下がれば、『高値銘柄数−安値銘柄数』は減る」という正相関の関係にあることは間違いありません。ただ、相関係数は0.4程度と、意外に低く水準です。
これは、「高値銘柄数−安値銘柄数」の増減と日経平均の上昇下落が単純な比例関係でないためでしょう。
たとえば、ある日の日経平均株価の上昇率がプラス1%、翌日はプラス2%と、上昇率が2倍になったとします。そのとき、「高値銘柄数−安値銘柄数」が2倍程度の増加になるとは限りません。4倍、あるいは10倍に増えるようなこともあり得るでしょう。(高値安値銘柄数はザラ場の動きまで取り入れるのに対し、ここでの平均株価の動きとは引値だけの動きである、という違いもあります。)
また、例えば、安値更新銘柄数が非常に少ない状況下で高値更新銘柄数が半減したとしても、高値更新銘柄が優勢であることに違いはありませんから、その日の平均株価は上昇していても不思議ではありません。 この場合、水準としては高値更新銘柄のほうが多くても、水準の変化としては高値更新銘柄の割合が減少していることになります。となると、平均株価は上昇しているけれども、高値安値インデックスは下落している、という話にもなります。
高値更新銘柄・安値更新銘柄の動向が、市場の実勢の強さ弱さを示唆するものだとすれば、この“高値安値インデックス”を売買のシグナルに使うことも可能なのではないでしょうか。
これを試してみました。
グラフ6はルック(8029)について、225先物の前日比上昇下落をシグナルにした順張りの売買と、“高値安値インデックス”の前日比高低をシグナルにした順張りの売買(指数の値が前日より高ければロング、前日より低ければショート)を検証してみた結果です。
以前も紹介したことがありますが、この銘柄は、225先物をシグナルにした順張り売買が非常に有効と見られるのですが、高値安値インデックスをシグナルにした場合もまた同等の好パフォーマンスが出ています。
225先物シグナルに対してルックと同様の傾向がある兼松日産(7961)はどうでしょうか。
この銘柄は、225先物シグナルで十分なようです。
高値銘柄・安値銘柄数の動向が、市場実体のすう勢を示唆していると捉えるならば、たとえば、高値安値インデックスの移動平均をシグナルにする方法も考えられます。
高値安値インデックスの100日移動平均をとって、その日の高値安値インデックスの値が100日移動平均の値よりも高ければロング、100日移動平均の値よりも低ければショートという順張り売買の検証結果です。グラフ7と比較してみると、累積パフォーマンスの水準は低いものの、グラフ7でパフォーマンスが落ちている局面でも比較的安定的な推移となっていることがわかります。
中には、225先物をシグナルにしたときよりもはるかに良好な結果が出てくる例もあります。
バナーズ(3011)は少々極端な例ですが、累積パフォーマンスは1400%にも達しています。
この“高値安値インデックス”については、当サイト上で日々の数値を掲載する予定です。売買シグナルとしての活用法も折にふれて紹介していきます。
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