あけましておめでとうございます。本年もどうぞよろしくお願いいたします。
2016年は大発会から大荒れで、それこそ激変、激動、激震が相次いだ1年でした。今年は昨年とは正反対の大幅上昇スタートとなったわけですが、さて、この先いったいどんな展開が待っているのか。と、どんなに考えてみたところでこれから起きることなどはわかるはずはありません(と、言ってしまうと身も蓋もないのですが)。ただ、ひとつ確かなことは、これから起きることは2016年の延長線上にある、ということです。そこで、まずは激変動の2016年、インデックスの主要な出来事を振り返っておきましょう。
大発会 | 日経平均株価がいきなり582円安。以後1月12日まで6日続落 |
1月20日 | 日経平均株価が前日比632円安の1万6416円で引ける。引値が15年最安値1万6901円を下回ったことによって、12年11月から鮮明になった“アベノミクス”上昇相場は15年6月を以て終了し、15年8月19日から下降トレンドに入っていることが確定。 |
2月12日 | 日銀のマイナス金利導入でいったん戻した市場は2月1日をピークに再下落。いずれの指数もこの日まで下げ続け、株価は14年10月レベルに逆戻り。日経平均株価のこの日の安値は1万4885円。引値は1万4952円。 |
4月21日 | 2月12日を目先の底にいずれの指数も反転。とりわけマザーズ指数が絶好調。日経平均株価が3月末から軟調な動きとなる中、マザーズ指数は4月19日に07年1月以来の1200ポイント乗せを達成。21日の1230ポイントまで高値を更新 |
5月16日 18日 |
マザーズ指数が原因不明の大暴落。16日が前日比6.76%安、18日は7.84%安と、指数とは思えない下げ幅を記録 |
6月24日 | 英国の国民投票の結果、予想外のEU離脱。開票時に場が開いていた日本市場では日経平均株価が1286円安の爆落。6月に入ってから株価が下げ基調にあったことから、この日の安値は2月12日をわずかながらも下回る水準に |
6月27日 | ”Brexit”ショックは日本市場だけで欧米市場は強い動きをしたことから日経平均株価は翌日から反発。以後、7月1日まで6連騰 |
7月11日 | 日経平均株価が本格反転ムードとなる。その後1万7000円で2度上値を抑え付けられたが、7月の日銀政策決定会合で発表されたETF買い入れ増額が効果を発揮。以後「下がらない相場」の様相となる |
8月1日 | シャープ(6753)がこの日から東証2部に降格。2部銘柄の中で突出した時価総額のため、以後2部指数は”シャープ指数”に性格が一転 |
10月5日 | 日経平均株価が200日移動平均線を上回り、6月24日の安値からのトレンド反転の可能性がより一層濃厚に |
10月26日 | JASDAQ指数の引値が大発会高値116.17ポイントを上回る |
11月2日 | 他の指数が強い動きを見せる中で一人軟調な動きをしていたマザーズ指数は10月21日からさらに弱い展開となり、11月2日にそれまで死守してきたサポート水準900ポイントを下回る |
11月9日 | 米国大統領選挙でトランプ氏の当選確実を受け、またも開票時に場が開いていた日本市場は爆落。日経平均株価は前日比919円安。マザーズ指数は”Brexit”の安値をも下回り、この日の安値は798.86ポイント |
11月10日 | 日本市場が引けた後、トランプ氏の積極財政出動期待から米国金利が急上昇。連れてドル高が急伸。欧米市場も強い動きとなったことから、ナイトセッションで先物が1000円高。翌10日の日本市場では、9時に場が開いても軒並み買い気配で寄り付かない異様な光景。日経平均株価は前日比1092円高で“トランプ・ショック”の大陰線を全帳消し。この日から12月1日の1万8500円超えまでほぼ一直線の上昇となる |
12月1日 | JASDAQ指数が15年8月来の120ポイント超えを達成 |
12月6日 〜16日 |
日経平均株価が怒濤の9連騰で大発会高値を更新。年足陽線で引ける可能性が高まる |
12月28日 | JASDAQ指数の引値が15年最高値を超える |
大納会 | 日経平均株価が1万9114円で引け、5年連続の年足陽線が確定 |
とにかく印象に強く残っているのは、世界中のマスメディアが大どんでん返しを喰らった英国のEU離脱と米国大統領選挙のトランプ氏当選でしょう。いずれも日経平均株価が1000円レベルの爆下げしているのですから、忘れたくても忘れられないのは当然。なのですが、Brexitやトランプ当選どころではない、極めて重大な動きが2つ昨年の相場の中に出現しています。
ひとつは1月20日。日経平均株価が引値ベースで15年9月の安値を割り込んだことです。これによって、12年11月からのいわゆるアベノミクス相場は15年6月24日をピークに終了し、15年8月19日から主要トレンドがベア転換していることが確定しています。相場において、主要トレンドの転換ほど重大なことはありません。
相場の主要トレンドは1年以上続くというのが通常の解釈です。よって、この時点では、反転上昇があっても上値は切り下がり、再び下落に転じれば安値は切り下がる、というのが先行き予測のメインシナリオになります。実際、日経平均株価およびその他の株価指数は2月12日まで安値を更新し、以後の反発では上値は切り下がっています。そして、6月に入ると雲行きが日々怪しさを増し、2月12日の安値を割り込む展開も視野に入ってきます。
そこで起きたのが6月24日のBrexit爆落。ここで日経平均株価は2月12日の安値をチョロッと下回ってしまいます。が、引値ベースでは小数点以下をまるめると偶然にも2月12日と同値。翌日反発した日経平均株価は7月10日に今一度安値を試す動きを経て、7月11日から反転上昇の様相となっています。
この反転上昇の支えとなったのが日銀のETF買い入れ増額です。下がれば日銀が買いにくる、というわけで、これを機に下値は堅さを増し、10月に入ると日経平均株価は200日移動平均を超えて推移するところとなっています。
この動きの結果チャート上に描かれたのは、Wボトム型の底値圏を形成しての強気転換パターンです。この強気パターンは、トランプ氏当選による積極財政出動期待に基づく米国金利上昇とそれに呼応したドル高が強烈なバックアップ要因となって、その様相を一層強めたことは間違いありません。ただ、相場の動きとして重要視するに値するのはそれ以前。6月24日の引値が2月12日と同値だったこと。そこから10月にかけて着々と上昇トレンドを築いていたことです。つまり、本格強気転換のお膳立てが整い、トレンドは既に走り出していた可能性がある。これが16年の相場の重大な動きの2つ目です。
もし、足元の上昇基調が主要トレンドの本格強気転換だとすれば、アベノミクス相場終了後の下降トレンドは、15年6月24日を起点、16年6月24日を終点としても、期間は(偶然にもぴったり)1年しかなかったことになります。アベノミクスの上昇相場が約3年続いたことからすると、いかにも短いという感は否めません。とはいえ、上昇相場の中での一時的調整にしては「1年」は長すぎます。
一体この動きをどう解釈すればよいのか。相場の理論の中に、これをうまく説明できそうな考え方があります。
昨年5月の連休前に連載のレポートにも書いたことですが、エリオット波動理論の基本的な解釈からすると、12年11月を上昇トレンドの起点としてピークの6月までが上昇5波「1-2-3-4-5」。8月まで天井圏を形成し、8月19日から16年2月12日までが調整3波「a−b−c」と捉えることができます。そのあとの動きは何かといえば、6月24日まで底値圏を形成して新たな上昇5波がスタートした、です。
また、エリオット波動理論では、戻しの目安としてフィボナッチ数列の公比の極限値1.618(いわゆる黄金比率)の逆数である0.618、その2乗の0.328、および中間の0.5というリトレイスメント率が用いられます。12年11月の始値8931円から15年6月24日の高値2万952円までの値幅は1万2021円。高値2万952円から16年6月24日の最安値1万4864円までの値幅は6088円。2月12日と6月24日の引値1万4952円を用いれば高値からの値幅はちょうど6000円。ほぼぴったり「0.5戻し」です。
このエリオット波動理論の極々基本的な部分がどれほど相場の先行きを的確に予測できるのかは定かではありません。実際の相場の中でも、「上昇5波、調整3波」に美しく当てはまる動きに遭遇することのほうが少ないといっても過言ではないかもしれません。
そもそも、この「5波動で上がって、3波動で戻す」という考え方、あるいは、理論の根幹にあるフィボナッチ数や黄金比率とは何なのかというと、これはスパイラル的に成長していく自然界のモデルです。
たとえば、自然界に現れているフィボナッチ数の例として、植物の茎につく葉の数(葉序)があります。植物の葉は茎に沿ってらせん階段を昇るように生えていきます。このとき観測される葉のつく主なパターンは「茎を1回転する間に3枚葉をつける」「茎を2回転する間に5枚葉をつける」「茎を3回転する間に8枚葉をつける」という3つがあると言います。これらの数字はいずれもフィボナッチ数です。このパターンで葉をつけていくと、重なりが少なく高密度で葉がついていく。つまり、できうる限り多くの葉が最大限に光合成できる状態となって成長していけるというわけです。
エリオット波動理論のもとにある考え方は、このようならせん的に伸長する相場。経済で言えばインフレーションです。デフレ下で超長期の下降トレンドの中にあった日本市場では、この逆パターン、すなわち「下降5波、調整(戻しの上昇)3波」といったイメージで、下降トレンドにある波の数のほうが多く、期間も長かったのは事実です。ところが、12年11月から16年末にかけての動きはインフレーション型の順パターンになっている。ということは、もしかするとデフレ脱却で本物の超長期トレンドの大転換? 昨年6月24日からの動きは、その可能性を示唆するものでもあります。
日本のみならず、近年は世界の主要国がデフレを強く意識せざるを得なくなっています。80年代までのインフレ基調がなぜデフレに転換したのか。非常に大きな背景として指摘されているのは冷戦崩壊とともに巨額の軍事費投入が行われなくなったことです。いかに大盤振る舞いの財政出動を断行しても、軍拡競争時の「作っては廃棄して刷新、作っては廃棄して刷新」で投入してきた資金量ほどの垂れ流しには及ばないでしょう。
その一方では、軍事用に研究開発されてきた情報通信技術が民間レベルでも使われるようになり、それがIT化の進展という形で経済活動を飛躍的に効率化しています。かつてとは比べものにならないほど少ない陣容で短時間に大量にモノが供給できるとなれば、デフレ化は不可避とも考えられます。
しかし、経済のシュリンクを余儀なくするデフレは止めなければならない。かといって、かつてのような軍拡競争をやっている時代ではない。そこでどうするか。たとえば、かつての軍事費に匹敵する効果があるくらいの超巨額資金を中央銀行がジャッブジャブと金融市場に供給し続けたらどうなるでしょうか。それが市中に回れば、デフレではなくなる可能性はあるのではないでしょうか。
実際に、いま主要国の中央銀行はデフレ対策に躍起になっています。これが本当に奏功するかどうかはわかりませんが、日本市場では、超長期の下降トレンドが続いていた時期には現れなかった変化が見られることは確かです。
たとえば昨年、日経平均株価は5年連続の年足陽線となりました。以前にも取り上げましたが、49年に東証が再開して以来、78年から89年までの12連続陽線に次ぐ記録。バブル崩壊の90年以降、一度も起きなかった現象です。
この12連続陽線を描いた時期、日本も、また世界も、延々と好景気が続いていたわけではないとしても、インフレ型の成長は継続していました。ということは、もし中央銀行による超巨額の資金供給が続くとすれば、年足12連続陽線もあり得るのではないでしょうか。つまり、年足陽線6本目に挑む今年は、年足12連続陽線超えに向けて歩み出す年でもある。と、新年ですから、少し威勢のいいことを言ってしまいます。
もっとも、現段階ではWボトム型の底値形成からの主要トレンド本格ブル転換はまだ確定していません。本格ブル転換が確定するのは、日経平均株価が15年6月の高値2万952円をしっかりと抜けたときです。よって、2017年相場の第1の焦点は、日経平均株価が高値を更新するか。これに尽きます。
仮に2万952円を抜けたとしても、チョロッと抜けただけではダメです。その場合には、今度はWトップ型の天井圏形成という極めて好ましくない相場転換の可能性も示唆されます。
昨今の相場の動きの速さからすれば、あっという間に1万8000円台どころか、1万6000円台に逆戻りすることも想定せざるを得ません。そうなる前に手が打てるよう、高値圏にきたときに日経平均株価がどういう動きをしているのか。日経平均株価以外の指数に弱い動きが現れていないか。信用買い残高や裁定買い残高が妙に膨張して先行きの需給悪化の兆候が出ていないか。こうした点には十二分すぎるほど目配りをしておきたいところです。
他方、日経平均株価が高値を超えて上昇する動きとなり、幸いにして本格強気相場の様相になった場合でも、あっという間の市場急落がいつ起きてもおかしくない、と考えておくことは今日的必須です。
おそらく、日経平均株価が15年の高値を超える動きとなったときには、「2万5000円を目指す」「目標値は3万円だ」「いずれは89年の高値を超えるだろう」といった強気の見通しが出てくるでしょう。しかし、そうした水準まで株価が上昇するとしても、その途中には必ず調整局面があります。高速取引が主体となっているいまの市場では、その調整が強烈な暴力的叩き売り状態になるであろうことは、これまでの経験からしても容易に想像できます。干支にちなんだ相場の格言で「申酉騒ぐ」などと言われますが、もはや申酉であろうがなかろうが、些細なきっかけで市場急落、突拍子もない乱高下はいつ何時でも起きうる。これが今日の市場で売り買いするうえでの大前提でしょう。
昨年の新年のご挨拶でも述べましたが、市場が乱高下したときにその痛手をいかに抑えるか、さらには、その高ボラティリティーをいかに収益源にするか。その方策を常に意識しておくことが何より重要です。具体的には、2倍連動型あるいは2倍逆連動型の日経平均連動ETFのショート。もしくは、日経平均オプションが有力な選択肢になります。
日経平均オプションについては、市場が乱高下してボラティリティーが異常高騰すると、どう考えても日経平均株価のSQ値がそこまでいくとは考えられないほど権利行使価格の極めて安いプットオプションがすっ高値をつけていたりします。そうした局面でショートするのも妙味があるのではないかと思います。
個別銘柄でいえば、市場の大急落局面でいかにうまく拾うかです。結果として超長期の強気相場になるならば持ちっぱなしでも利益は出ますが、途中の市場急落局面で安く拾って値上がり益をもらう売買を組み入れるほうがパフォーマンスが伸びるのは言うまでもありません。その拾い買いの資金を確保するためにも、株価が高値圏にあるときに現金化を進めておくことを前向きに考えてみてください。
もうひとつ、今年の相場の焦点になると見られるのは、東証マザーズ指数の動向です。
昨年の大発会からの暴落が底をつけた2月12日以降、この指数の反発は非常に強く、4月には8年ぶりの高値を更新するという絶好調ぶりを発揮していました。ところが、5月16日と18日に謎の暴落。いまにして思えば、絶好調時に花形だったそーせい(4565)をはじめとする小型・新興株を手掛けていた一部のメインプレーヤーがこのとき市場から退散したのではないでしょうか。その後半年にわたるあまりに弱々しいトレンドからすれば、小型・新興株を取り巻く需給動向があの急落を機に一転したと見ざるを得ません。
マザーズ指数が最高値をつけた4月21日、および、ほぼ同値の高値をつけた5月8日から半年を経れば、アク抜けして浮上軌道になるだろうと予想していました。しかし、現実はそれほど甘くなかったようです。ひとまず最悪期は脱した感は出てはいるものの、本格的に上昇トレンド転換したのかどうか、不安が残る動きで16年を終えるところとなっています。
個人的な感覚で言えば、この指数が強い動きをしているときは市場が非常にエキサイティングで、さほど大きな資金でなくとも短期で値幅が取れる。売買する銘柄にもそう悩まなくていい。要は、儲かりやすい。実に楽しい相場です。
昨年後半、日経平均株価やJSADAQ指数が意気揚々と上値を伸ばす中、マザーズ指数はひとり辛酸をなめ続けてきました。この指数が今年早々から復調する動きを見せて、たとえば200日移動平均を超えて推移する動きになった場合には、日本市場全体が強い基調になったと捉えて間違いありません。と同時に、それは楽しい相場到来のサインでもあります。
そうなることを強く期待しつつ、本年も皆さまのお役に立てる情報提供に尽力する所存です。