とりわけ昨今は、指数と個別銘柄との関係を意識することが重要になっています。というのも、株価指数先物の売買動向が、現物市場の個別銘柄の動きを左右するケースが日常茶飯事のように起きているからです。
株価指数先物は、個別銘柄の株価によって形成される株価指数の派生商品ですから、先物価格は現物市場の株価指数を意識して動くというのが、本来的な姿ともいえます。
ところが、昨今の状況は、まず株価指数先物が動き、あたかもその価格に現物市場の株価指数を追随させるがために、個別銘柄が売買されるような格好となることが珍しくありません。(コラム参照)
その場合、指数を構成する全銘柄を売買することはありません。先述のとおり、構成銘柄のごく1部の銘柄で指数のかなりの部分を占めています。ですから、寄与度の高い銘柄に絞って売買すれば株価指数を上下させることは可能になるわけです。
もっとも、現実には、それぞれセクターの事情や個別の事情によって買われたり売られたりしている部分もありますから、いつも同じ高寄与度銘柄だけを売買すればよい、ということでもありません。
たとえば、円高が急伸してファナック、京セラ、キャノン、ホンダ、東京エレクトロンなど、日経平均に対する寄与度の高い外需・ハイテク系銘柄がボコボコに売られる状況になれば、日経平均株価は大幅に下落するでしょう。もし、ここで、ファストリやソフトバンクなど、円高が売り材料になりにくい高寄与度銘柄を強烈に買えば、指数の下落幅は抑えることができます。
円高に加えて国内の景気指標が悪く、ファストリなど内需系も売られてしまう状況であれば、武田薬品やアステラス、エーザイなど、寄与度の高い医薬品メーカーが買われることも考えられます。
そこで、電力株やNTTT、JR.などTOPIXに対する寄与度の高い銘柄が買われると、日経平均株価の下げ方に比べてTOPIXの下げ幅は抑えられます。こうした状況は場況コメント的には「円高急伸と景気先行き懸念が広がる中、ディフェンシブ銘柄に買いが集中した」ともなります。
株価指数に対する寄与度の高い銘柄は、指数に対する影響度も大きいことになりますが、ただし、だからといって、株価指数に近い値動きをするというわけではありません。
この点は、「各種指標との相関」」欄のところでも紹介しますが、たとえば、日経平均株価に対する寄与度が断トツ1位のファストリは、日経平均株価との相関性は高くありません。それどころか、弱いながらも逆相関です。
ということは、日経平均株価が上昇しているときはあまり買われず、日経平均株価が下落しているときに買われている可能性がある、と考えることができます。
NTTドコモの場合、TOPIXに対する寄与度は非常に高いのですが、TOPIXとの相関性はやはり高いほうではありません。
ですから、日経平均が上昇すると予想するなら日経平均高寄与度銘柄を、TOPIXのほうが上昇しやすいと予想するならTOPIX高寄与度銘柄を買えばいい、ということでもありません。
この辺りについては、また「各種指標との相関」」欄のページで考えていきましょう。
時価総額で寄与度が決まるTOPIXに比べ、株価水準が寄与度を左右する日経平均のほうが、指数の数字を動かしやすい面があるのは否定できません。というのは、時価総額の大きい銘柄は、1ティック株価が変動するのに相当な資金額が必要になるのに対して、日経225寄与度の高い銘柄の中には、株価水準は高いものの板はさほど厚くなく、値が比較的軽い銘柄もあるからです。
とくに昨今のような参加者が限定的な相場状況では、そうした銘柄はかなり“使われやすい”状況になっているようにも見えます。
他方、株価指数先物は、日経225先物のほうがTOPIX先物よりも売買が活発です。その観点からしても、「日経平均は個別銘柄のファンダメンタルズ要因とは別の部分で動く(動かされる)可能性がある」ということは意識しておく必要があります。
寄与度の高い、たとえば上位10銘柄は、その1銘柄だけでも指数に対する影響力が大きいわけですが、10位台、20位台の銘柄の影響力も侮れません。
たとえば、先述した大手医薬品メーカーは、武田(寄与度14位)、エーザイ(18位)、アステラス(19位)です。寄与度上位の外需・ハイテク株が売り込まれた際にこの3銘柄が買われれば、指数の下落はある程度は緩和され、場況的には「ハイテク株が売られ、ディフェンシブ銘柄が買われた」という格好に見えるでしょう。
さらに、寄与度が30位以下であっても注視しておきたい銘柄は少なくありません。
日経平均株価に対する寄与度が低くなると、株価水準もそれなりに安くなります。言い換えれば、値がさ銘柄よりも出来高が稼ぎやすいということです。加えて、先述したように、板がさほど厚くなく、値が比較的軽い銘柄であれば、同じような立場にある銘柄を束ねて売買すれば、指数に対する影響力もそれなりに大きくなります。
とくに、事業内容が堅く経営不安に陥る可能性が少なそうな銘柄、市場における存在感が地味めで材料が出にくそうな銘柄、事業内容的にいかようにでも解釈できそうな銘柄などは、その時々の状況に応じて指数調整役になることも考えられます。
そうした銘柄は、SQ時に出来高が爆増する傾向があります。
SQの日の「出来高急増銘柄上位」を見ると、どの銘柄がそれに当たるのか、目安がつくと思います。
おそらく、日々相場を見ている人なら、日経225先物に大口の買いが入った瞬間、個別銘柄も一斉に値上がりする、先物に大口の売りが来れば、一斉に個別銘柄が売られる、という光景は頻繁に目にしていると思います。
そうした動きによって、現物市場の株価指数が先物価格についていく格好になっているのですが、一体なぜどのようなことが起きるのでしょうか。
実際にどんなことが行われているのか、詳細は定かではありませんが、たとえば、市場の中には、先物と現物指数との間で裁定取引をしている参加者がいます。
先物がまず先に上昇したとすると、現物指数が「割安」になるため、裁定取引をしている参加者は、現物指数の上昇を見越して個別銘柄をバスケット買いする、先物が先に下落した場合は逆の行動を取るでしょう。
これは、先物の値動きの方向に個別銘柄(で構成される現物市場の株価指数)がついて行く一因になります。
また、主体別売買動向を見ると、先物の売買主体の5割〜6割は外国人、証券会社の自己売買部門が3割、個人が1割弱で、国内金融機関はほとんど売買していないことがわかります。つまり、先物の売買で市場を動かしているのは主に外国人、それに相対しているのが証券会社の自己部門という可能性が考えられるわけです。
外国人の売買に相対するとなると、先物が主導で買われるときには「先物を売り」、先物主導で売られるときには「先物を買う」格好になります。この先物のポジションをヘッジするならば、個別銘柄を買うことが一策として考えられます。 この行動もまた、先物の動きに現物市場の動きがついていく要因になります。
結局、こうした様々な動きが同時に出るために、結果として、先物価格に現物市場の株価指数がかけ離れずに追随する形になって面があると思われます。
ところで、その先物の売買で市場を動かしている(と見られる)外国人は、一体なぜそのようなことをするのか、という点も興味が沸くところです。
もちろん、先物のトレーディングで売買益を狙うということもあると思いますが、現物市場の個別銘柄によって形成される現物市場の株価指数との関係でいえば、SQというものも重要なカギを握っていると考えられます。
株価指数先物・オプションは、通常は現物市場と異なる市場で売買されていますが、最終的には現物市場の株価指数で算出される特別清算指数(SQ値)で資金のやり取りが行われます。
自身が持っているポジションによって、株価指数をどちらの方向へ動かしたい、ということはあり得ます。
あるいは、オプションを売っているのであれば、株価指数が降着して動かない状況になればオプション料を丸取りできます。となれば、何らかのきっかけで現物市場の株価指数が大きく動きそうになった際には、寄与度の高いごく一部の銘柄を売り買いして、株価指数の動きを抑えようとするかもしれません。
とくに日経平均株価の場合には、高寄与度銘柄を集中的に売買することによって、指数をかなり調節することが可能と見られます。実際、値下がり銘柄数が1000超でも「日経平均は前日比値上がり」ということもあります。そのときには、ほぼ間違いなく、日経平均に対する 寄与度の高い銘柄群、言ってみれば“高寄与度オールスターズ”が買われています。