(1)利回り水準から債券の「時価」が計算できる!
本書の中で「市中の利回り水準が動いたとき、債券の価格はどのくらい上下するか」の例がいくつか登場しています。
国債や社債など、通常の債券は、償還までの期間と償還金額、そして、その間に支払われるクーポン、および利払い時期が発行時に確定しています。「将来のことが確定している」が故に、その時々の金利情勢に応じた債券価格が計算できるのです。
これは債券の大きな特徴であり、投資家からすれば大きなメリットともいえます。
株式の場合、「いまの価格はいくらが適正なのか」を計算することはできません。というのは、将来について確定している要素が何もないからです。
たとえば、いまの株価が割高か割安かを示す指標として、株価収益率(PER)がよく用いられます。現在の株価が、当期利益を発行済み株式数で割った「1株あたりの利益」の何倍かを示す数値ですが、ここで用いられる当期利益は「今期の予想」に基づくもので、実際の利益がその通りになるかどうか、何の確証もありません。
また、配当利回りにしても、予想配当金額に基づくもので、実際にその配当金額が出るのかどうか、これも現時点では不明です。
会社の解散価値をもとにした株価純資産倍率(PBR)は、株価の割高・割安を捉えるうえでかなり有用な指標ですが、純資産の内容を厳密に調べてみなければ正確な価値はわからないでしょう。
さらに、各種の指標が割安を示していても、買われずに割安のまま放置されている銘柄があったりします。
債券では、割安に放置されることはありません。というのも、確定している将来から「現在の価値」が即座に割り出され、それが市場参加者全てのコンセンサスになっているからです。
「確定している将来から割り出された現在の価値」というのが、債券の時価を意味します。
前述のとおり、債券では「何年何月何日にクーポンをいくら受け取り、何年何月何日にいくらの償還金が戻ってくる」という、将来受け取る金額と時期がわかっています。
その「いつの時点で、いくら」の各金額を、いま時点の金額に置き換えて、全部合計したものが、その債券の現在価値であり、債券価格です。
たとえば、額面金額100万円で表面利率2%の新発債を買ったとします(新発債なので利回りも2%です)。
利払いは年2回で、半年後に額面金額の1%に相当するクーポン1万円を受け取ります。
この「半年後のクーポン1万円」ですが、その現在の価値は「1万円」ではありません。
もし、いまここに1万円があって、これを利回り2%で運用したとしたら、半年後には1万100円になっています。「半年後の1万円」よりも100円高いのです。
ということは、「半年後のクーポン1万円」は「いまここにある1万円」より価値は安い、と考えなければなりません。
「半年後のクーポン1万円」は、2%という利回りで半年間運用されて得られた金利分を織り込んだ金額と解釈できます。よって、いまの価値を考えるときには、その「得られた金利分」相当を割り引く必要があるわけです
いまの価値をP0として単利の式をつくれば、
半年後のクーポン1万円=P0×(1+0.02×0.5年)
となります。
そうすると、いまの価値P0は、
で、9901円です。
債券のクーポンに限らず、将来のお金(キャッシュフロー)を現在の価値に置き直すといくらになるかは、同じように考えることができます。
式にすれば、
となります。
この式からもわかる通り、受け取る時期が先であればあるほど現在価値は安くなります。
次は、(2)利回りをもとにゼロクーポン債の価格を出してみる、です。