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【ETF】新規上場「仕組み債ETF」の使い方

「日経平均の買い+225オプションのコール売り」のETF

 12月22日、東京証券取引所にまた新たなETFが上場します。その名は「日経カバードコールETF」(証券コード:1565)。日本経済新聞社が公表している「日経平均カバードコール・インデックス」という指数との連動を目指すETFで、設定・運用はシンプレクス・アセットマネジメントです。(→東証のリリース

と、概要を見ても、一体どんなETFなのか、という感じですが、このETF、要は、仕組み債に投資するファンドです。

「仕組み債」と聞くと、あの罵倒されまくりの「ノックイン型日経リンク債」を思い浮かべるかもしれません。このETFの投資対象の仕組み債も、日経リンク債ではあるのですが、証券会社で販売されているノックイン型日経リンク債とは中身がだいぶ異なります。

投資対象の日経リンク債は、日経カバードコール・インデックスという指数に連動する投資効果を目的に発行される債券です。

この日経カバードコール・インデックスなる指数とは何かというと、一定の条件のもとで「日経平均株価を買い、日経225オプション取引でコール・オプションを売る」という投資手法を想定し、その収益がどうなるかを表すように設計された指数です。(この指数についての詳細は、http://www.nikkei.co.jp/nkave/pdf/20110530_2.pdf

と、説明されても、一体どんなETFなのか、さっぱり見えてきません。

そこで、まずは、指数が想定している「日経平均株価を買い、日経225オプション取引でコール・オプションを売る」という投資手法の意味から考えていきましょう。


コール・オプションを買う人、売る人のリスクとリターン

日経225オプション取引は、「日経平均株価を」「予め決めた期日に」「いくらで」「買う権利、または、売る権利」を売買します。買う権利はコール・オプション、売る権利はプット・オプションと呼ばれます。また、「いくらで」に相当する値段を権利行使価格と言います。

たとえば、日経平均株価が9000円のときに、「1ヶ月後の期日に、日経平均株価を9500円で買う権利」、すなわち、権利行使価格9500円のコール・オプションの売買を考えてみます。

このコール・オプションを買った人は、1ヶ月後の期日に株価がどんなに高くなっていようとも9500円で日経平均を買うことができます(実際には、日経平均株価は指数なので、そのものを買うことはできませんが、ここでは個別銘柄か、日経平均先物のように考えてください)

Aさんは、このコール・オプションを50円払って買ったとしましょう。この「50円」はこのコール・オプションの値段で、プレミアムと呼ばれます。

もし期日の日経平均が1万円なら、この権利を使うことで、時価よりも500円安く日経平均を買うことができます。それを即売れば、500円分の利益。オプションを買うときに支払ったプレミアムを差し引いても450円分の利益です。

Aさんの利益は、期日の日経平均株価が権利行使価格よりも高ければ高いほど、大きくなります。株価には上限がありませんから、極端な話、Aさんが得られるかもしれないリターンは無限大です。

もし、期日の日経平均株価が9500円より安かったらどうなるでしょうか。Aさんは権利を使っても損をしてしまいます。よって、この場合は、権利は使わずに放棄すればいいだけです。最初に支払ったプレミアム分50円は損してしまいますが、株価が権利行使価格よりもどんなに安くても、損失は50円以上にはなりません。

このように、コール・オプションを買った人は、得られるかもしれない利益は無限大、損失は支払ったプレミアムに限定されるという、非常に都合のいい立場です。

今度は、コール・オプションを売る人を考えてみます。「『買う権利』を売る」というのは、ちょっとおかしな感じがしますが、「買う権利を保証する立場になる」というようなイメージです。

コール・オプションを売った人は、オプションを買った人が支払うプレミアムを受け取ります。それと引き替えに、期日にオプションを買った人が権利を行使したときには、それに応じる義務を負います。

Bさんは、日経平均が9000円のとき、利行使価格9500円のコール・オプションを売ったとします。Bさんは、このオプションのプレミアム50円をもらいます。

期日の株価が権利行使価格9500円より安かった場合には、このコール・オプションを買った人は権利を放棄します。相手が権利を放棄したのですから、Bさんは何もすることはありません。プレミアム50円がまるまる利益です。ただし、Bさんの利益は、株価が権利行使価格よりどんなに安くても、50円以上には増えません。

もし、期日の株価が9500円よりも高かったらどうでしょうか。オプションを買った人は権利を行使しますから、株価がどんなに高かろうとも、それを9500円でオプションを買った人に売り渡してあげなければなりません。期日の株価が1万円だとすると、時価1万円で日経平均を買って、それを9500円で売り渡してあげなければならないので、500円分の損失。受け取ったプレミアム分を考慮しても450円分の損失です。

Bさんの損失は、期日の日経平均株価が権利行使価格の9500円よりも高ければ高いほど膨らみます。このコール・オプションを買ったAさんとは正反対に、極端な話、被るかもしれない損失は無限大です。

このように、オプションを売った人は、利益は受け取ったプレミアムに限定される一方で、被るかもしれない損失は無限大という、何とも恐ろしい立場になります。


「コール・オプション売り」の“無限大リスク”を限定化する

オプションを買った人は「リスク限定、リターン無限大」、対してオプションを売った人は「リターン限定、リスク無限大」とは、あまりにも売り手のほうが不利ではないか、と思うのではないでしょうか。

実はそうでもありません。

先に見た例は、日経平均が9000円のときの、権利行使価格9500円のコール・オプションです。つまり、1ヶ月後の期日に日経平均株価が500円以上、5.56%以上高くなっていなければ、このオプションを買った人は権利行使できません。株価が下がっていれば権利放棄、株価が上がっていたとしても、500円以下の上昇では権利放棄です。

たとえば、日経平均株価が1ヶ月後に5%以上値上がりしている確率はどのくらいあるかを1990年以降の株価データで調べてみると、19%程度にすぎません。ということは、このコール・オプションを買った人が権利行使できる確率は2割以下。残り8割以上は権利放棄で、プレミアムがまるまる払い損となってしまいます。コール・オプションの買い手は、株価が大きく上がらなければ負けてしまうのです。

逆に、このコール・オプションを売った人は、権利行使に応じなければならない確率は2割以下。残りの8割以上は買い手が権利放棄して、プレミアムをまるまるもらえて何もすることはない、ということになります。コール・オプションを売った人は、株価が大きく上がりさえしなければいいわけで、勝率でいえば、オプションの売り手のほうが圧倒的に有利です。

とはいっても、オプションを売った人は、権利行使に応じなければならない状況になった場合には、どれほどの損失を余儀なくされるか。確率的には2割以下でも、リスク無限大であることには違いはありません。

この無限大リスクを何とかできないものでしょうか。

ここで、なぜリスクが無限大なのかを改めて考えてみると、期日の日経平均株価が権利行使価格よりも高かった場合、それがいくらであろうとも、日経平均株価を時価で調達し、時価よりもはるかに安い権利行使価格でオプションの買い手に売り渡してあげなければならないからです。

ならば、もし権利行使価格よりも安いところで日経平均株価を買って持っていたとしたらどうでしょうか。期日の日経平均株価が権利行使価格よりも高く、買い手が権利を行使してきたら、事前に買っておいた日経平均株価を権利行使価格で売り渡せば済んでしまいます。相手が権利行使しても、プレミアムはまるまるもらえてお終いにできるではありませんか。

事前に日経平均株価を買っておけば、コール・オプションの買い手が権利を行使しても、権利を放棄しても、どちらになってもプレミアムはまるまるもらえるとは。これは何とも素晴らしい作戦! 

と、思いたくなるところですが、ただし、事前に日経平均株価を買って持っていれば、今度は、株価が値下がりした場合には資産がそれだけ資産が減るというリスクを抱えることになります。株価が大暴落でもしようものなら大変な損失です。

もっとも、株価が下がった場合には、コール・オプションの売りで受け取ったプレミアムはまるまる利益になります。ですから、日経平均株価だけを持っているよりは、コール・オプションを売ったプレミアムの分だけ、損失は底上げされるという面はあります。

これが「日経平均株価を買い、日経225オプションのコールを売る」という投資手法の効果です。

このように、「オプションの原資産(この場合は日経平均株価)の買い」と「コール・オプションの売り」をセットにした手法が、カバードコールと呼ばれる投資ストラテジーです。

日経平均のカバードコールは、基本的には、日経平均株価が値下がりすればそれと連動した損失を出しますが、コール・オプションの売りによって得られるプレミアム分だけ損失は減らせます。また、日経平均が権利行使価格よりも値上がりしても、コール・オプションの売りの損失は発生しません。

反面、日経平均株価が大幅上昇した場合には、日経平均だけを持っていれば大きな利益になっているところが、持っている日経平均株価はコール・オプションの権利行使に応じて売り渡すために利益は限られてしまいます。


「下がらない、かといって、上がらない」相場がベスト

12月22日に上場する日経カバードコールETFは、日経平均のカバードコール戦略による収益を表す指数「日経カバードコール・インデックス」に連動するように組成された仕組み債を投資対象としています。

ということは、このETFの基本的な性格は、日経平均のカバードコールと同様に、

  1. コール・オプション売りのプレミアム分を受け取ることができる。
  2. 基本的には日経平均株価が下がれば連動して価格も下がる。ただし、日経平均株価よりも下げ方は若干なりとも底上げされる
  3. 日経平均が上昇しても、コール・オプションの権利行使価格以上の値上がり分は利益にならない。よって、株価が上昇した場合の恩恵は限定的。

ということになります。

株価が上がっても利益は限定的、株価が下がれば連動した損失、となると、「全くメリットがないじゃないか」と感じるかもしれません。

そうでもないのです。というのは、株価は上がるか、下がるか、だけではないからです。

株価には「もみ合いうような格好になって、ほとんど動かない」という状態があります。株価が動かなければ、買っても、売っても、どちらをやっても儲かりません。そうした「動かない状態」に強いのが、まさにこのETFです。このETFは、株価は下がらない、かといっても、大きく上昇するような動きもない、という相場状況のとき、コール・オプションのプレミアムだけがまるまる利益になってウシウシ状態になります。

日経カバードコール・インデックスという指数は、1ヶ月ごとに新たな翌月期日(期近物)の日経225オプションのコール・オプションを売り、期日(SQ日)に清算するとともに、また新たなコール・オプションを買うことを想定しています。権利行使価格は、SQ日の日経平均株価よりも5%高い価格です。

そうすると、日経平均株価が少しだけ上がる状況(権利行使価格までは上がらずにオプションの買い手が権利放棄する状況)がベストと考えられます。株価が少し上昇の状況ならば、それだけ日経平均の評価額は高くなり、その一方で、権利行使はなされないので、コール・オプションのプレミアムはまるまるもらえます。

「日経平均はそうも下がらないだろうけれども、そうも上がらないだろう」と予測するときこそ、このETFの出番です。

なお、日経カバードコール・インデックスはコール・オプションのプレミアム分は再投資すると想定して指数を算出していますが、このETFは、コール・オプションを売って得られるプレミアムは分配金の原資になります。決算日および分配金支払い基準日は年4回です。



「仕組み債ETFのリスク」については、こちら、をご覧下さい。


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2011年夏号
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