8月の世界的急落がようやく落ち着いたと思っていたところに、欧州方面で緩和策の発言。中国も金融緩和策を行ったことから、世界の市場のムードがかなり明るくなっています。一時はどうなるかと思われた新興国市場も持ち直しているようです。日本市場も、勢いよく、とまでは言えないものの、しっかりした動きになっています。
さて、「株を買うなら市場全体がよいとき」というのが定石ですが、市場がよい、あるいは、悪くないと判断した場合、注目していた銘柄をどういうタイミングで買えばよいか。これが次なる問題です。たとえば、浅めのサポートを見つけて、短期的な押し目を狙う方法もありますし、意識されていると目される移動平均があるならば、その移動平均の水準を目安にする方法もあるでしょう。では、そうしたサポート水準がわかりやすい銘柄でない場合はどういう方法が考えられるのでしょうか。たとえば、それまでは動きのはっきりしていなかった銘柄が、市場の好転を機に急上昇するようなことがあります。また、ボラティリティーの大きい銘柄も買うタイミングを捉えるのが難しいものです。
図1は、1日あたりのボラティリティーが4.6%の総医研ホールディングス(2385)の株価の推移です。
12年11月後半から13年5月にかけて株価が7倍以上に上昇していますが、この急上昇はどうすれば取れたのか。まず考えられるのは、“イケイケ作戦”、すなわち「上がったら買い」の超順張りです。新興株や低位株の急騰局面では、超順張りで攻めるのが有効、という例は数多く見られます。そこで、この銘柄が前日比で上昇したら買い、値上がりし続けている間は買い継続という順張り売買を検証してみました。
12年11月後半からの急上昇の一部をちょっとだけ取れた、といった感じです。ちなみに、この銘柄は貸借銘柄ではありませんが、「前日比で値下がりした日にショート」についても検証しています。この仮想ショートは、急上昇局面で大きくパフォーマンスを落としています。ということは、上がった翌日にはさほど上がらず、下がった翌日に大きく上がる、という動きで、その結果、このときの強い上昇トレンドは、「ショートすると損失がかさむ」という形で現れたと考えられます。
後付け的ではありますが、この急上昇局面は市場全体のトレンドの大反転(いわゆるアベノミクス相場)に連れたものでした。ならば、素直に市場全体の動きに追随するという方法を取ったらよいのではないでしょうか。
図3は、日経平均先物が前日比上昇ならばこの銘柄をロング、日経平均先物が前日比下落ならばこの銘柄をショートするという、日経平均先物の値動きをシグナルにした売買を検証した結果です。
明らかに、図2で見たよりも上昇局面を取れています。また、ショートについても、図2よりも損失は抑えられています。
もっとも、これは昨日今日の値動きの結果ですから、これだけで「アベノミクス相場に乗った」というのは短期的すぎる捉え方かもしれません。そこで次に、時間軸を少し長くして、日経平均先物の移動平均をシグナルにした売買を検証してみました。
先物の3日移動平均、5日移動平均、10日移動平均をシグナルにして、先物の引値が各移動平均より高ければこの銘柄をロング、先物の引値が各移動平均よりも安ければこの銘柄をショートという順張り売買の検証結果です。ロングもショートも、累積パフォーマンスの推移が見違えるように安定しています。また、急上昇局面以後のこの銘柄の株価は、14年9月に一度飛び跳ねた以外はパッとしない動きが続いているのに対して、いずれも、ロングの累積パフォーマンスは右肩上がりを続けています。なお、10日移動平均を用いたケースでは、3日や5日よりも累積益が減少していますが、これは、移動平均期間が長くなったことで、乗り遅れ(逃げ遅れ)が発生したものと見られます。
日経平均先物に対するこの銘柄の決定係数を調べてみると、わずか0.01。つまり、日々の値動きに関しては、日経平均とこの銘柄の相関性はほとんどありません。にも関わらず、日経平均先物の移動平均をシグナルにするとパフォーマンスが上がるというのは、この銘柄は、市場全体の動きにやや遅れてついてくる傾向があると解釈されます。
別の銘柄を見てみましょう。
日経平均先物に対する決定係数が0.04、1日あたりのボラティリティーが3.6%の岡本硝子(7746)の株価の推移です。この銘柄は、12年半ばに一度吹き上げた後に全戻し以上の下げとなり、アベノミクス相場の初動にはさほど反応しませんでした。しばらく寂しい相場が続いていましたが、14年途中から動きが出はじめ、15年に急騰を演じています。
まず、先ほどと同様、この銘柄そのものの値動きをシグナルにしたケースを見てみます。
12年半ばの吹き上げと15年の急騰局面では、順張りロングのパフォーマンスも急上昇していますが、それ以外ではロングもショートも見るべきところがあまりありません。
この銘柄も、日経平均先物の前日比上昇・下落、および先物の移動平均をシグナルにしてみると、パフォーマンスが一変します。
先物の前日比上昇・下落をシグナルにした場合、15年の急騰はほとんど取れず、売りではやられる結果となっていますが、3日移動平均をシグナルにすると安定する傾向が現れています。5日移動平均を用いると、さらにパフォーマンスの推移は安定的になります(10日移動平均も試してみましたが、5日移動平均のほうが良好でした)。
ここでは、日経平均先物のデータを用いて検証していますが、日経平均株価でも、あるいは、日経225連動ETF(1321)でも傾向は同じです。この「市場全体の値動きシグナル」、当サイトでも過去に何度か紹介したことがありますが、注目している銘柄があるならば、一度調べてみてはどうでしょうか。
移動平均は何日がよいか、については、市場全体の値動きの織り込み方によります。指数採用銘柄は、昨日今日というよりも、日経平均の動きはリアルタイムで織り込まれる度合いが大きいと考えられます。織り込むのが1日遅れる銘柄であれば、今日の日経平均の前日比上昇・下落が売買シグナルとして有効。それよりも織り込み方が遅い銘柄は、3日あるいは5日移動平均、さらに遅い銘柄は10日程度の移動平均が有効となるでしょう。
とにもかくにも、個別銘柄を買うならば、日経平均が上がっているとき、市場全体の調子がよいときにする。逆に、市場全体が悪いときには「売り」を基本に売買すれば、そうひどい結果にはならないはずです。市場全体の動きをシグナルにすることは、それを自ずと実践する手立てと言えます。
ただし、「市場全体の値動きシグナル」には注意したい点がひとつあります。それは、市場全体が良好であっても、その銘柄の独自要因によって下降トレンドを続けている場合です。
この銘柄は14年のIPO以来、軟調な展開を続けています。このようなトレンドにあっては、さすがに先物をシグナルにしても成果は期待できません(この銘柄も貸借銘柄ではありませんが、空売り可能としてショートも検証しています)。
この銘柄の値動きそのものをシグナルにするよりは、先物の移動平均をシグナルにした売買のほうが安全、とは言えますが、銘柄特有の強いトレンドには太刀打ちできないのも事実です。まず、日経平均の値動きによって市場全体を確認し、そのうえで、個別銘柄のトレンドを見て売買を判断する。この「基本の『き』」とも言える行動が、手堅く利益を重ねていくうえでの最重要ポイントなのではないでしょうか。