7月19日、大証の次世代J=GATEシステム稼働に伴い、東証マザーズ指数先物が上場しました。出だしの売買状況を見ると、「思ったほど盛り上がっていないのね」というのが率直な感想です。任天堂やらサノヤスやら日本マクドやらで手一杯、マザーズ先物どころじゃない、といったところなのでしょう。
とはいえ、動くときには派手に動いてくれる指数の先物です。気に掛けておいて悪くはありません。市場参加者もメディアもポケモンに熱狂して、マザーズ指数先物などはそっちのけ状態になっている間に、これをどんな視点で売買したらよいか、攻略法を考えておくのもよいと思います。市場が荒れ狂ってからでは、おそらく「マザーズ先物をどう使うか」など考える余裕はないでしょう。
この先物をどう使うか。まず思いつくのは「新興株ポートフォリオのヘッジ」でしょう。しかし、前回マザーズ指数について取り上げたときに述べた通り、現状“そ−せい指数”となっているマザーズ指数の先物でヘッジの効果が果たして期待できるのか。甚だ疑問です。
「マザーズ指数に対する寄与度の高い銘柄との裁定」という使い方も考えられます。ただ、そーせい(4546)、CYBERDINE(7779)、ミクシィ(2121)の“御三家セット”と先物の間での裁定は、高速売買の人たちの独壇場になるだろうことは想像するに難くありません。高速でない個人の参加者としては厳しい取引になりそうです。
そうすると、他にどんな売買がありうるのか。その具体案を考える前に、そもそもマザーズ指数の値動きとはどんな性格のものなのかを見ておきましょう。
はじめに、マザーズ指数の値動きです。
日経平均株価の値動きと比べてみると、14年辺りまでは連れて動いていましたが、だんだんデカップリングの様相が強くなっています。14年に導入された「マザーズ上場後10年経過銘柄の上場見直し制度」が効いているのかもしれません。今年に入ってから軟調な日経225を尻目にマザーズ指数が力強く上昇したのは、ひとえに「そーせいのお陰」ということはご存知の通りです。
マザーズ指数そのものの値動きには、「上がった日の翌日も上がりやすい」「下がった日の翌日も下がりやすい」という順張り型の傾向があります。。
図2は、「マザーズ指数が前日比上昇=マザーズ指数自身を大引けでロング」「マザーズ指数が前日比下落=マザーズ指数自身を大引けでショート」という、バーチャルな売買を検証してみた結果です。累積パフォーマンスの推移は、ところどころ落ち込むところがあるものの、右肩上がりになっていますから、少なくとも「逆張りで売買する対象ではない」ということははっきりしています。
同じ期間中の「今日と翌日」について、上げ下げの関係を調べてみると、こんな結果になります。
期間中の前日比上昇の日数は714日。前日比下落の日数は583日。上昇の日数のほうが上回っているのは、この期間中の基調が上昇トレンドにあったことによります。「今日と翌日」の2日間の値動きの組合せで言うと、「上げ・上げ」の回数が最も多く、とくに指数が上昇する局面で順張り型の性格が強く出ていたことがわかります。
ということは、マザーズ先物が値上がりした日にロングするのがいい、となりそうですが、実は、それよりも有効性の高そうな売買があります。
先ほど、日経平均株価の値動きの推移と乖離が生じている様子を見ましたが、マザーズ指数が市場全体の動きと逆の動きをしている、というわけではありません。図4は、225先物の移動平均をシグナルにマザーズ指数を順張り売買するというバーチャルなトレードの検証結果です。たとえば、225先物の5日移動平均をシグナルにする場合ならば、「225先物の引値が5日移動平均より高い=マザーズ指数を大引けでロング」「225先物の引値が5日移動平均よりも安い=マザーズ指数を大引けでショート」といった具合に、225先物のトレンドによってポジションを取ります。
売買シグナルにする225先物の移動平均として2日・3日・5日・10日・25日を調べてみましたが、いずれも、図2で見たマザーズ指数の前日比上昇・下落をシグナルにするよりもパフォーマンスは良好。とくに、3日と5日の移動平均がよい感じになっています。つまり、マザーズ指数は225先物よりも1,2日遅れて動く傾向がある、と考えられます。
ちなみに、マザーズ指数と225先物の日々の値動きにはそれほど強い相関関係があるわけではありません。
図5は225先物の前日比上昇下落率をx軸に、マザーズ指数の前日比上昇下落率をy軸にとった相関図です。決定係数(R2乗)は0.27(相関係数は0.52)ですから、225先物にぴったり連れてはいないけれども、かといって、全く無視して動いているふうでもない、という程度です。
ところで、図5の相関図に示されている数式「y=0.8309x+0.0402」の「0.8309」は、225先物に対するマザーズ指数のβ値です。225先物が「1」動くと、マザーズ指数はだいたい「0.83」動くという関係を示しています。
この数値を使って、マザーズ指数のポジションに225先物でヘッジをつける売買を検証してみました。
グラフのAは図2で見たのと同じマザーズ指数自身の前日比上昇・下落をシグナルにしたマザーズ指数の順張り売買。Bは、マザーズ指数が前日比上昇ならば「マザーズ指数をロング+その0.83倍サイズ相当の225先物をショート」、マザーズ指数が前日比下落ならば「マザーズ指数をショート+その0.83倍サイズ相当の225先物をロング」という、225先物で逆のポジションをとってヘッジを付けた売買の累積パフォーマンスです。ヘッジを付けることによってパフォーマンスは伸び、かつ、推移は安定的になっています。
225先物の移動平均をシグナルにした売買でも、225先物のヘッジは有効を発揮します。
Aは、225先物の引値が5日移動平均より高ければ「マザーズ指数ロング+225先物ショート」、225先物の引値が5日移動平均より安ければ「マザーズ指数ショート+225先物ロング」という売買の累積パフォーマンス。Bは、売買シグナルを225先物の3日移動平均にした場合の累積パフォーマンスです。図4で見た結果よりも、パフォーマンスの水準が一段高くなっています。
視点を変えてもうひとつ。マザーズ指数そのもののシグナルと225先物の5日移動平均シグナルが一致したときだけポジションを取るというパターンを調べてみました。
「マザーズ指数が前日比上昇、かつ、225先物の引値が5日移動平均より高い」ならば大引けでマザーズ指数をロング、「マザーズ指数が前日比下落、かつ、225先物の引値が5日移動平均より安い」ならば大引けでマザーズ指数をショート、という想定の売買検証結果です。これまで見てきた売買検証例はほぼ毎日ポジションを保有していたのに対して、このパターンでは約4割の日はノーポジションになります。パフォーマンスの推移のブレ方もより抑えられていますが、それでも最悪ドローダウンは27.3%。また、14年から15年にかけての約1年、利益が伸びない期間があったなど、実際のトレードに使う際にはもうひと工夫欲しいところです。
今回紹介した売買検証結果はいずれも、それを踏まえたシステマチックなトレードでなくとも実践で活用できると思います。まず意識しておきたいのは、引値ベースのマザーズ指数の値動きは、市場全体(≒225先物)の短期トレンドに順張り型だという点です。とくに先物のポジションをオーバーナイトするときには「順張り」を心掛けたほうがよさそうです。
また、新興株のヘッジとしてマザーズ先物を使うという発想もさることながら、マザーズ先物のポジションに225先物のヘッジを付けるというトレードも一考に値します。マザーズ指数との相関性の高い個別銘柄であれば、その銘柄のヘッジに225先物や225連動ETFを使う、という考え方もあるでしょう。
市場参加者が限定的な昨今、円安が進行して主力銘柄が買われ日経平均株価が調子よく上昇すると、小型・新興株は資金が回ってこなくなるために冴えない動きになることが珍しくありません。ましてや、任天堂はじめポケモンGO関連銘柄が前代未聞の取引高になっているともなれば、“その他”銘柄はもはや買い手不在状態にもなってしまいます。「マザーズ先物or新興株ショート+225先物の買いヘッジ」の短期的ポジションは、折りに触れて検討してよいのではないでしょうか。
ご参考までに、マザーズ指数と相関性の高い順に並べた個別銘柄リストを用意しました。各銘柄のマザーズ指数に対するβ値も記載されています。個別銘柄と株価指数先物のトレード考案にお役立てください。
なお、日本取引所によれば、マザーズ先物は225先物・TOPIX先物との証拠金相殺効果があるようです。以下、引用です。
>> 例えば、東証マザーズ指数先物(売2単位)と日経225mini(買1単位)の取引をした場合、単純に合算すると235,000円((60,500×2)円+114,000円)ですが、証拠金相殺効果により約75,000円に減少します。
>> 証拠金計算に用いるSPAN®パラメーターは、原則として週次で見直されるため、証拠金水準・割引率は変動します。又、商品の組み合わせやポジションの状況によっては、証拠金額の相殺の対象とならない場合もありますのでご注意ください。
以上、引用でした。上場がポケモン・GO相場に被ってしまいましたが、 マザーズ指数先物の売買が順調に推移したあかつきには、マザーズ指数先物「オプション」の導入を期待したいところですね。