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【225・ドル円】拡大する乖離が解消に向かうシナリオ

日経平均先物の割高状態は過去5年で最大レベル

7月半ば以降の株式市場は、調子よく値上がりして「今度こそ1万7000円回復」と期待させられると大きく下がる。これはマズイのではないか、と警戒していると、また調子よく値上がりして「今度こそ1万7000円」と期待させられるものの、また失速する。そんな動きが繰り返されています。米国市場に目を向ければ、あちらは最高値更新モードが継続中。それに比べて日経平均株価は、昨年6月の最高値の2万900円ははるか遠い彼方の低位置に未だ甘んじています。海外市場の動向からすると、日本株だけ何故安いのか、と感じている人もいるのではないでしょうか。

ところが、いまの日本株は安いどころか実は非常に高い、という見方もできてしまいます。この見方の根拠は、5月8日付けの当欄レポート「為替にふらされる相場の中の狙い処」の中でも取り上げた日経平均先物とドル円レートの乖離です。年初からドル円レートのほうが日経平均先物よりも割高状態にあったところが、4月半ばを境に位置関係が逆転。日経平均先物のほうが割高状態になり、さらにここ数週間ほどの間に、その乖離の拡大が顕著になっています。

図−01は、年初から8月19日までのドル円と225先物価格の散布図です。5月8日付けのレポートに掲載したのと同様、x軸に米国時間引値のドル円レート、y軸にその約4時間後の大証立合時間の日経平均先物の寄値を取っています。中心にある直線は、11年4月以降の両データの相関関係を示す回帰直線で、言うなれば、「過去約5年のデータからすると、この直線上がドル円レートに対する日経平均先物の適正価格」。ドットの位置がこの直線より下にあれば「ドル円レートが割高」、ドットがこの直線より上に位置していれば「日経平均先物が割高」という解釈になります。

米国の8月18日(日本時間は19日の5時)のドル円レート引値は99.865円。この日の日経平均先物の寄値は1万6570円。ドットは回帰直線よりもはるか上方に位置しています。つまり、100円割れしているドル円レートからすると、現状の先物価格は極めて高いということです。

この割高乖離は、過去5年でも最大レベルです。

この先物割高状態は、日銀によるETF買い入れ枠増額が背景にあるのは間違いありません。日銀のETF買い入れが先物価格を押し上げる至るプロセスについては一部報道などでも取り上げられていますが、日銀は株式市場で直接ETFを買い上げているわけではなく、信託銀行に買い入れ実施の指示を出し、信託銀行が証券会社と場外取引によってETFを購入しています。証券会社は買い入れの注文に備えて事前にETFを買っておくと同時に、先物を売ってヘッジしています。ETFの買い入れが実施されると、ヘッジで売っていた先物を買い戻し、それが先物価格の押し上げ要因になります。となれば、それまで先物を売っていた参加者も買い戻しに走り、さらに先物価格が押し上がる、といったイメージです。

本来であれば、円高ドル安が進行すると「先物を売っておけ」となるところですが、日銀のETF買い入れ実施が予想される中では、先物を売るに売れない。その結果、円高ドル安になっても先物はさほど下がらず、割高乖離が拡大しているのが現状です。


驚くほど強いドル換算日経平均。驚くほど情けない円換算S&P

この日経平均先物および日経平均株価の超割高状態は、ドル換算の日経平均株価に端的に現れています。

日ごろ目にしている日経平均株価は上げ下げを繰り返すだけで上値を伸ばせないでいますが、ドル換算の日経平均株価はどうでしょうか。何と、日経平均株価が2万円を超えていた時期とほぼ同水準にまで急上昇しているではありませんか。これは、株価は上がらなくても円の価値が高い(=ドルが安い)からにほかなりません。ドルを円に換えて日本株に投資している外国人は、こんな高パフォーマンスを享受しているのです。

このドル換算の日経平均株価の強さとは全く対照的なのが、円換算した米国の株価指数です。

米国のS&P500を円環算してみると、日経平均株価に見劣りするくらいに情けないトレンドになってしまいます。株価が上がっていても、円に対するドルの価値が下がっているからです。最高値を更新しているとは言っても、円換算にするとこの有り様。これでは、ドーピングして金メダル、のようにも見えてしまいます。ちなみに、円をドルに換えて米国株に投資している日本人は、この円換算のグラフのようなパフォーマンスになり、「最高値更新」の恩恵には全く授かることができません。


乖離解消へのメインシナリオは「割安が買われる」

過去の例に従うならば、日経平均とドル円との乖離はいずれ解消される方向へ向かいます。日経平均のドル円に対する超割高状態が過去の適正水準に戻るとするならば、

@ 日経平均とドル円がともに上昇するとき、ドル円レートのほうがより値上がりする(円安ドル高の急伸)

A 日経平均とドル円がともに下落するとき、日経平均のほうがより値下がりする

のどちらかになると予想されます(もうひとつ、「割高な日経平均が下がり、割安なドル円が上がる」というパターンも考えられますが、この可能性は@Aに比べるとかなり低いと思われます)。

果たして、@Aのどちらになるのか。過去のドル円レートと日経平均株価の推移を見てみると、ドル円が割高だった局面、日経平均株価が割高だった局面、いずれも乖離は解消され、その後は割高・割安が逆転する、という動きが繰り返されて相関関係が保たれていることがわかります。

割高・割安がどういう形で解消しているかといえば、大方は、双方が上昇するときに割安なほうがより上昇する、というパターン。現状で言えば@です。

昨今の日米の情勢から考えても、@のシナリオは十分にあり得るのではないでしょうか。たとえば、先週辺りから、地方連銀の総裁が9月利上げの可能性をほのめかす発言が出てきています。利上げはドル高要因であり、米国株価の押し下げ要因となりますから、9月利上げが現実視されれば、先ほど図−04で見た円換算のS&Pは上昇し、ドルのS&Pは下落して、乖離は縮小すると予想されます。また、日経平均株価が上昇する以上に円安ドル高の進行が大きければ、ドル換算の日経平均株価は下がり、円の日経平均との乖離もまた縮小します。

このシナリオになった場合には、株よりもドル円のほうが妙味を持ちます。FXでドルを買うのが最も直接的な手段ですが、FXでは取引金額が大きすぎる場合には、米国債を対象資産とする「IS米国債ETF」(1363)を活用するのも一策になりそうです。対象資産が残存期間7年〜10年の米国債ですから、利上げによる債券価格下落のマイナスよりもドル高によるプラスのほうがETF価格により強く反映されると思われます。

なお、IS米国債ETFには、為替ヘッジのついたタイプ(1482)もありますが、こちらはドル高のメリットはありません。債券価格の下落だけがETF価格に反映される格好になります。投資対象を間違えないようにご注意を。


世界的な“リスク・オフ”になると「株のほうが強烈に売られる」

@のシナリオは、日本株市場にとって最も望ましい展開であるのは言うまでもありません。ドル円よりも上げ方が小さいとしても、これで日経平均株価はこれまで超えられなかったレジスタンスをブレイクする可能性もあります。それは、昨年8月からの下降トレンドが転換した兆しを示唆する動きにもなります。

ただ、@になる可能性のほうがAよりも高いのか、と言うと、そう断言することは残念ながらできません。改めて、日経平均とドル円のチャートを見ると、何らかのショックが起きて世界的に“リスク・オフ”モードになった市場急落局面では、日経平均もドル円もどちらも下落していますが、いつも日経平均株価の下げ方のほうが強烈です。その結果、市場急落が落ち着いた後には、ドル円が日経平均よりも割高状態になっています。今年の年初から4月までドル円のほうが割高状態だったのも、結局のところ、年初から2月半ばまでの市場急落の後遺症だったと言えます。

この事態になって現状の日経平均とドル円の割高・割安が逆転するならば、先ほどのドル円と日経平均の相関関係の回帰直線からすると、日経平均株価は軽く1万4000円割れすると予測されます。これによって昨年8月からの下降トレンド継続が確認されることになります。「トレンドは反転するより継続する可能性の方が高い」というチャートの理論の基本的考え方からすれば、このシナリオになる可能性が高い、と言えなくもありません。

@になるのか、Aになるのか。米国の利上げと日銀の「総括」が注目される9月、日経平均の超割高解消の結論が出るかもしれません。現在のところは、日銀のETF買い入れが市場の安心感となっていますが、Aのシナリオになる可能性も念頭に置いて、その場合にはどう対処するか。先物・ミニ先物か、日経レバレッジETFをショートする。あるいは、ダブルインバースETFを買う。もしくは、日経平均オプションのプットを買うなど、ダメージを極力抑えるための手立ては事前に考えておきたいところです。この難局を切り抜けることができれば、その先に予測される絶好のチャンス、すなわち、割安状態に逆転した日経平均が、割高と化したドル円との乖離を解消する方向に動く強いリバウンド局面にも余裕で参戦できます。



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