先週は原油安が続き他の市場を大いに振り回した感がありました。株式市場は大きく下に引っ張られました。株式投資家にとって、商品市況はFXよりも縁遠い市場かも知れませんが、全く無関心でもいられません。一体、どういうことになっているのでしょうか。東証には原油の価格に連動するETFが複数上場しています。まずはそれからチェックしてみましょう。
WTI原油価格連動型上場投信(1671)の価格も確かに急落しています(赤点は東日本大震災のところです)。すでにガソリンの店頭価格は下落を続けているわけですが、電気料金は下がらないのでしょうか。と、それはさておき、そもそも今回の原油安、長期のチャートを見てみると、世界中が大騒ぎするほどの下落か、という気がしないでもありません。
図2のチャートは、米国のETF「USO」のチャートです。WTI先物(※1)の直近限月を保有し続けることで先物の価格変化に連動します。際どいところまで下がってはいますが、WTI先物・直近限月データ(チャートの持ち合わせはありません)で見ると、2009年1月に見せた安値が33.20ドル、直近の価格は57.49ドルですから、その安値まではまだ余裕があります(※2)。09年の安値の後の高値は、2011年5月の114.83ドルからすれば、ほぼ半値の水準になっているとはいえ、2008年を前後しての急騰・急落に比べれば「お安くなりましたね」程度とも受け取れます。
もっとも、この先も下落が止まらないとなれば、お安くなりましたでは済まない事態が出てくるかもしれません。たとえば、より原油安が進み逃避需要による米ドル高が進むと、米ドル債務(借金)を抱えた国の中には返済困難な事態が発生する可能性(たとえば通貨危機)もあります。また、日本は原油の消費国ですので原油安はインフレ圧力の低減となる一方で、デフレ退治の障害にもなり得ます。ひとつの市場の大きな動きがどこにどう影響するのかわかりませんから、当面は「注視」したおいたほうがよさそうです。
(※1)West Texas Intermediateの略。Light Sweet Crude Oil とも言われ米国産原油の価格指標。原油価格の指標としてもっともポピュラーでその先物の流動性は高いです。他に、ドバイ原油(中東原油、東京商品取引所(TOCOM)が採用)、北海ブレント原油などが原油の主要指標です。
(※2)ETFと先物(直近限月つなぎ足)の価格推移に乖離が生じるのは、ETFが毎月の先物限月交代で期先限月に乗り換える際に「期先−期近」の価格差がETFの価格に反映されるためです。通常は「順ざや(コンタンゴ)」なので安い期近を売って高い期先に乗り換えることになり価格差分の支払いが生じます。先物の売買検証においては、限月交代の際の乗換スプレッドを加味したデータを作成することが必須になります。ETFの方は乗換スプレッドは取引価格に織り込まれています。
せっかく大きな動きが出ているのに「注視」だけではもったいない。ということであれば、株式市場でトレードすることを考えてみましょう。
トレードする対象候補の筆頭は、やはり原油市況に連動するETFでしょう。
図3は、最初に見たWTI原油価格連動型ETF(1671)の寄値と、米国のUSOの円換算チャートです。通貨を揃えれば、ほぼ同じプロダクトであることがわかります。
この2つの相関を調べてみると、図4のようになります。
横軸がUSOの円換算、縦軸が1671・寄値です。前日のUSOの引けにドル円レートを掛け合わせたものを「X」として、1671の寄値「Y」の目安とすると、Y値の標準誤差(1標準偏差分のブレ)は86円です。つまり、寄値目安と実際の寄値には±90円程度はズレがあっても「想定の範囲内」ということになります。
別の原油価格連動型ETFの例も見てみましょう。
図5は野村原油インデックス連動ETF(1699)について、同様の相関図をつくってみた結果です。このETFの連動対象は「野村原油インデックス」ですが、実質WTI連動と捉えて良さそうです。むしろ、先にみた1671よりUSOとの連動性が高い実績になっています。ちなみに、Y値の標準誤差は8円です。
これらのETFをトレードする場合、日本時間の早朝に引けるUSO前日比上昇下落が売買のポイントのひとつになりそうです。
図6は、USO(ドル価格)が前日比上昇ならば1671を寄りで買う、USOが前日比下落ならば1671を寄りで売る(いずれも大引け手仕舞い)という売買のシミュレーション結果です。1671の場中の値動きはUSOの値動きに順張り型の傾向になっていることが確認できます。1699で同じシミュレーションをしてみると、図7のような結果になります。
ザラ場の値動きが前日のUSOの上げ下げに順張りで動く傾向の理由としては、前日のNY市場の流れが日本時間においても継続している説、東証での寄付価格がUSOの値動きを充分に織り込んでおらず不足分をザラ場で修正している説、など考えられます(が、本当のところはよくわかりません)。
なお、東証には、上に挙げた二つのETF以外に、2038・日経TOCOM 原油ダブル・ブルETN、2039・日経TOCOM 原油ベアETN、1690・ETFS WTI原油ETF、などありますが、流動性に少々難アリです。
原油の値動きに反応する銘柄についても調べてみました。USO(ドル価格)の前日の値動きと寄値(前日引値との騰落率)の相関係数(×100)です(データは過去約5年)。
コード | 銘柄名 | 業種 | 相関係数 (×100) |
---|---|---|---|
1671 | WTI原油価格連動型上場投信 | ETF | 82.3 |
1699 | Next NOMURA原油 | ETF | 81.0 |
1605 | 国際石油開発帝石 | 鉱業 | 50.3 |
1542 | 純銀上場信託(現物国内保管型) | ETF | 46.8 |
8058 | 三菱商事 | 卸売業 | 46.1 |
8031 | 三井物産 | 卸売業 | 46.0 |
5713 | 住友金属鉱山 | 非鉄金属 | 45.1 |
1325 | Next ブラジル株式指数 | ETF | 44.6 |
1680 | 上場F 海外先進国株式 | ETF | 44.4 |
1324 | Next ロシア株式指数 | ETF | 43.5 |
8002 | 丸紅 | 卸売業 | 43.4 |
1662 | 石油資源開発 | 鉱業 | 43.2 |
5707 | 東邦亜鉛 | 非鉄金属 | 42.4 |
1681 | 上場F 海外新興国株式 | ETF | 41.8 |
1550 | Maxis 海外株式 | ETF | 41.7 |
8001 | 伊藤忠商事 | 卸売業 | 40.8 |
6301 | コマツ | 機械 | 39.6 |
1554 | 上場F世界株式 | ETF | 39.0 |
5020 | JXホールディングス | 石油・石炭製品 | 38.9 |
1541 | 純プラチナ上場信託 | ETF | 38.8 |
1346 | MAXIS 日経225上場投信 | ETF | 38.8 |
5714 | DOWAホールディングス | 非鉄金属 | 38.4 |
1321 | 日経225連動型上場投資信託 | ETF | 38.4 |
1543 | 純パラジウム上場信託 | ETF | 38.3 |
1557 | SPDR S&P500 ETF | ETF | 38.2 |
1326 | SPDRゴールド・シェア | ETF | 38.2 |
1309 | 上海株式指数・上証50 | ETF | 38.0 |
1330 | 上場インデックスファンド225 | ETF | 38.0 |
1679 | Simple-X NYダウ | ETF | 38.0 |
それらしい名前が並びますが、原油ETF以外は、原油価格の動きは「数ある株価変動要因の一つ」という感じでしょうか。
たとえば、個別銘柄の中で最も相関係数の高い国際石油開発帝石(1605)の寄値とUSOの相関関係を調べてみると、図8のようになります。
正相関ではあるものの、バラつきがかなり大きくなっています。原油価格の変動が売上の相当部分に影響する銘柄ながら、株価変動の要因は実は他にも色々ある、ということでしょう。最近、原油安メリット株などと囃されたりする銘柄がありますが、コストの一部が下がったという話ですから、長く深入りするのは遠慮したほうがよさそうな気がします。
ところで、“商品繋がり”と思われますが、金のETF(1326)がリストに入っています。ならば、1671と1326を組み合わせてトレードしてみたらどうでしょうか。
図9は、図6の1671の売買に1326で同金額分のヘッジをつけたシミュレーション結果です。なぜこのような結果になるのかはわかりませんが、商品の世界もなかなか興味深いものがあります。商品先物口座がなくても、証券口座で取引できるETFは実に便利です。株式、株式先物、FX、商品先物それぞれにトレーディングツール(ウェブページ)を起動して別々に管理するのは本当に面倒です。そのうえ、証拠金の効率も良くありません。これで、通貨連動のETFがあれば、株も、商品も、為替も、全部1つの証券口座で取引できて、より一層便利になると思うのですが(以前、インドルピーやロシアルーブルなどマイナー通貨のETFがありましたが、残念ながら消えてしまいました)。
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