4月15日掲載の「日経レバレッジ指数ETFの使い方」の続編として、2回にわたって「国際のETF VIX短期先物指数」(1552)を取り上げています。その後編となります。(前編はこちら)
前回は、「国際のETF VIX短期先物指数」(1552)の連動元である、米国の「VIX短期先物指数」および、その指数を対象にしたETN(ティッカーVXX)を調べてみました。その結果 をふまえて、日本のVIX指数ETFをいかに使うか、具体的に考えてみましょう。
まず、このETF自身の値動きに順張りの売買を検証してみました。
オレンジの「引値に順張り」は、引値が前日比上昇なら大引けでロング、前日比下落ならショートという売買。青の「寄値に順張り」は、このETFの寄値が前日引値よりも高ければ大引けでロング、安ければ大引けショートという売買です。
「寄値に順張り」の累積パフォーマンスは右肩上がりですから、この売買はそこそこ有効、ということになります。その「寄値」に影響を与えているものは何かといえば やはり前日の米国市場のようです。
オレンジは、日本時間の早朝に確定する米国のVIX短期先物指数ETN(VXX)の引値が前日比上昇なら、日本市場の大引けでこのETFをロング、VXXの引値が前日比下落なら、日本市場の大引けでこのETFをショート、という売買を検証してみた結果です。このETF自身の値動きをシグナルにするよりも良好なパフォーマンスが出てきました。
青の「パラメータ導入」は、ロングは「米国のETNが1.90%以上の上昇の場合のみ」、ショートは「VXXが下落しても、その下落がマイナス3.05%を超える場合にはポジションはとらない」という条件をつけたケースです。このパラメータの数字は、このETNの値動きを機械的に5等分の度数割り振りした値から設定しています。ロングするのははっきりした上昇の場合だけ、大きく下げた場合にはショートは見送る、といった売買になりますが、この条件を付けたほうが、現在までのところパフォーマンスの推移が安定的になっているのがわかります。
前回、「VXX ETNは順張り売買が有効そうである」との検証結果を見ましたが、連動元が同じである国際のVIX ETFも、やはり順張り売買が有効。しかも、このETF自身の値動きよりも米国のVXX ETNをシグナルにするほうがより良さそうです。
大引けでの売買でなく、寄り付きに出動して大引けで手仕舞いするとどうなるでしょうか。
「日本時間の早朝に確定するVXXの引値が前日よりも高い(安い)場合、日本市場の寄付でロング(ショート)し、その日の大引けに手仕舞う」という売買の検証結果です。先ほどとは一転して、何とも言えない結果となってしまいました。日本市場のザラ場においては、VXXが前日と比べてどうだったかは、このETFの関心事ではないと見られます。
当然ながら、この国際のVIX ETFの値動きのほとんどは、米国市場の動向に左右されます。ですから、「寄付→大引け」のザラ場の値動きよりも、日本市場の大引けから翌日寄付までの値動き、つまり、前日引値と比べて寄値がどうなるかが、このETFの値動きを大きく支配するとみて間違いありません。日本市場の場中の値動きを見ながら、“ノリ”で売買するような銘柄ではなさそうです。
とはいえ、日本の市場平均、たとえば日経平均株価は米国株価指数にかなり連れて動く部分があります。また、4月15日掲載の「日経レバレッジ指数ETFの使い方」の図8で見たように、国際のVIX ETFと日経平均株価の値動きにはそれなりの相関もあります。ということは、日本の市場平均の値動きもこのETFの売買に活用できるのではないでしょうか。
そこで、国際のVIX ETFの対日経平均先物のβ値を「−1.8」(日経平均先物が「1」動くとき、国際のVIXETFは「マイナス1.8」動く)として、日経平均先物との組み合わせを考えてみます。この場合、国際のVIX ETFを100万円分買う(売る)とき、日経平均先物は180万円相当分買う(売る)という想定になります。値動きが逆相関なので、ロング&ショートではなく、「ロング&ロング」「ショート&ショート」というわけです。
国際のVIX ETFの引値ベースの値動きの標準偏差(ボラティリティーとほぼ同じ)は日次データでは「3.9%」ですが、日経平均先物と組み合わせると「3.0%」に低減します。つまり、組み合わせることによるヘッジ効果はある、と解釈されます。何のヘッジになっているのかというと、その大部分は「市場平均の変動リスク」です。
図−02で見た米国のVXXをシグナルにした売買を、この「国際のVIX ETF+日経平均先物」の組み合わせで試してみました。
条件をつけない単純な「米国のVXX ETNの引値に順張り」では、ドローダウンがかなり抑制されています(最大「−43%」→「−23.7%」)。他方、パラメータ導入は、図−02の結果のほうが良好に見えます。パラメータが“過剰な最適化”になっているのかもしれません。
なお、検証は、日経平均先物(ラージ)の価格で行っていますが、実際には自分の売買金額に合わせて、ミニ先物、あるいはレバレッジ指数・インバース指数を含めた225連動のETFを使うことになります。日経インバース指数ETFを使う場合、国際のVIX ETFと値動きの方向が同じですから、「一方がロングなら、もう一方はショート」のロング&ショートです。
さらに、この売買の成果の詳細を見るために、図−04の“単純順張り”(オレンジ)のパフォーマンスを、ポジションがロングのときのパフォーマンスと、ショートのときのパフォーマンスとに分けてみました。
ショートポジションはかなり安定的に利益を積み上げているのに対して、ロングポジションのほうは、強いベア相場の一時期だけ利益をあげています。前回紹介した、「市場のボラティリティーが落ち着いている時には、『安いものを売って、高いものを買う』という期先プレミアムを払い続ける」というVIX短期先物指数の仕組みがここにも現れているといえます。
ただ、ここで検証している売買は、日経平均先物を組み合わせてヘッジしているわけですから、強いベア相場の局面の「ロング&ロング」は、本来ならば「国際のVIX ETFは大きく上昇するものの、先物は同じくらい下落する」はずです。ところが、パフォーマンスを大きく伸ばしています。
なぜかというと、その理由の一部は、「強いベア相場ではヘッジ不足になっている」ということで説明できます。つまり、強いベア相場の局面では、国際のVIX ETFの値動きが、日経平均先物の「マイナス1.8」を大きく上回っているということです(市場が大きく変動したときに、連動元であるVIX短期先物指数がどう動くのかは、前回の<図0−05>に掲載しています)。
こうした強いベア相場の局面とは逆に、ポジションが「ショート&ショート」になっているときには、過剰ヘッジになる傾向があります。先物との組み合わせでポジションをとる場合には、この点は念頭に置いておいてください。
この図−05の結果を見ると、「これならショートだけでいいのではないか」という気がしないでもありません。もちろん、それも一策ですが、強いベア相場に利益をあげるポジションは貴重です。それに備えておきたければ、ショートでコツコツ稼いだ利益で、いつ来るとも知れない強いベア相場のためのロングポジションを賄っていくような格好になります。
幸い、米国のVIX短期先物指数は「引値が前日比上昇なら翌日も上昇する」「引値が前日比下落なら翌日も下落する」という、順張り型の値動き傾向があります。この傾向を利用するならば、やはり、前日の米国市場でVXX ETNが上昇したときだけ国際のVIXETFを大証の大引けでロングする、VXXが下落したときだけ国際のVIXETFを大証の大引けでショートする、というのが有効と考えられます。
ところで、米国のVXXETNは、その日本版(JDR:日本預託証券)が東証に上場されています。「iPath VIX短期先物指数連動受益証券」(2030)です。こちらのほうが本家本元ともいえる商品で、これを売買することも考えられますが、残念ながら、現時点では流動性にやや難アリと言わざるを得ません。
国際のVIX ETF、あるいは米国のVXXにしても、とても面白いプロダクト(商品)だと思います。いつ、いかに使うか、何と組み合わせるか。いろいろなアイディアが浮かんできます。
そのひとつを紹介しましょう。
何のグラフかというと、米国のVIX指数と米国債の債券価格の推移です。米国債は期間5年ですが、5年債の利回り(CBOEのトレジャリー・イールド・インデックス)からゼロクーポン価格を求めた、便宜的な数字です。
これを見ると、VIX指数が急上昇するたびに米国債が買われ、債券価格が大上げするのが見て取れます。「質への逃避(Flight to Quality)」を絵にしたような感じで、VIX指数が“恐怖指数(Fear Index)”などと称されるのも頷けるところです。
期間30年の米国債の場合は、動きがもっと激しくなります。
VIX指数の山の高さと30年債価格の山の高さがかなり比例しています。5年債に比べて、長期の米国債は感情的な動きをするようです。
この両者の値動き、VIX指数と米国債に何らかの関係があるのは疑えません。としたら、VIX短期先物指数を売買するうえで、米国債の値動きがシグナルになるのではないでしょうか。
米国債の価格が上昇(金利は低下)ならば米国のVXX ETNをロング、米国債の価格が下落(金利は上昇)ならばVXX ETNをショート、という順張り売買を検証してみましょう。
結構イケるのではないか、と期待していたのですが、30年債はともかく、5年債はパッとしない結果になってしまいました。
ならば、図−05で見た結果を参考にして、ロングはせずに、ショートだけにしたらどうでしょうか。
米国債の価格が下落ならばVXX ETNをショートする、という売りだけの検証結果です。30年債のほうは悪くありませんが、5年債のほうは実践では使えそうもありません。
「米国債の価格が2.38%以上の上昇ならばVXXをロング」「0.89%の上昇に満たない場合はショート」というパラメータ調整をしてみたのが緑です。「大きく上げたらロング、並みの上昇のときは見送り、それ以外はショート」といった売買ですが、30年債はこのパラメータ調整がかなり奏功しています。が、5年債はこれも冴えない結果に終わってしまいました。
30年の米国債は「ロングボンド(Long Bond)と呼ばれますが、「ロングボンドがほとんど上がっていないなら、VXXはショートでOK!」といったところでしょうか。この傾向は、国際のVIX ETFでも認められました(パラメータは、利回りから便宜的に作ったゼロクーポン債価格の変化率で、実際にトレードされているロングボンドの価格とはかなり異なります)。
この売買とは逆に、米国のVXX ETNの値動き、あるいはVIX指数をシグナルにして米国債をトレードしたらどうか、というと、見るべき結果は出てきませんでした。これは、「株の人たちはあまり債券を見ていないけれども、債券の人たちはそれ以上に株を見ていない」という現実を反映しているのかもしれません。個人的には、株も債券も両方を見ると、トレードの幅が拡がるのではないか、と思っているのですが…。
ちなみに、VIX指数と米国債価格の動きを見ると、VIX指数は昨年後半急騰した後、現在では落ち着きを取り戻しているのに対して、米国債は昨年後半の急騰の水準でいまなお高止まりしています。この乖離した状況が、今後定着するのか、それとも収れんされるのか。気になるところです。
米国のVXX ETN、国際のVIX ETF、そして東証上場の「iPath VIX短期先物指数連動受益証券」(2030)は、いずれも「リンク債ETF」と呼ばれるもので、言ってみれば“仕組み債”ETFです。3つとも実体は、バークレイズ(Barclays Bank PLC)が発行する債券(指数連動債券)です。
「仕組み債ETFのリスク」については、こちら(日経カバードコールETF)、をご覧下さい。
「ムーディーズ、大手金融機関17社を格下げ方向で見直し」との報道が2月にありました。その見直し作業はそろそろ終わるころです(6月末完了予定。ただし、JPモルガンの損失発生を受けて、後ろへずれ込む可能性も考えられます)。
この見直しによって、かなり大胆な格下げが懸念されています。バークレイズも対象になっています。見直し結果の発表がリンク債ETFに与える影響は未知数ですが、少なくとも、良い影響を与えることは考えがたいところです。
もちろん、格下げの嵐が通り過ぎるのを待っていればよい、と捉え方もできます。ただ、悩ましいことに、VIX ETFは市場の不安が増大するとともに価格が上昇します。実際、JPモルガンの件では、報道直後の11日、大証の前場においてVIX ETFが継続的に買われ、3%を超える上昇となっていました。このETFが買われる状況、本当に悩ましいです。
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