7月に入ってから売られ続け、ついに6月4日につけた安値割れも視野に入ってきたところで、「ようやく下げ止まってくれたか??」の雰囲気になっています。
もちろん、本当にそうなのかはわかりませんが、ただ、8500円そこそこといういまの日経平均株価、安すぎるという印象はないでしょうか。09年3月の安値は割り込んではいないとはいえ、市場にいいムードが出てくると、欧州問題がどうしたこうした、という話が出て下げっぱなしになる。短期的にいい感じの動きが出てきたかと思えば、米国市場が大きく下げてぶち壊し。米国市場が上昇して「よしよし、今日はいけそう」と思っていると、 円が急に買われて、先物が強烈に売られ、寄り前の好ムードも台無し。そんなこんなの繰り返しで、日経平均株価の上値は未だに切り下がる状況から脱することができません。いまの株価水準は、09年3月の安値より2割少々高い程度です。
対して、米国市場の長期チャートを見てみれば、09年3月から現在まで、しっかりした上昇トレンドが続いています。
現在の株価は09年3月の安値の実にほぼ2倍です。ここから上昇モードになれば、07年の高値も射程圏内でしょう。
しかし、だからといって「それに引き替え、日本株ときたら…」などとは考えることはありません。そのことは、2月24日付け本欄掲載情報「目先の上値ターゲットはいくらか」でも紹介した通りです。
全くダメそうに見える日経平均株価も、米国市場と土俵を同じにしてみると、決して悪いわけではありません。
ドル換算の日経平均株価の推移です。2007年7月2日の引値18146.3円を100(%)として計算しています。09年3月に安値をつけて以降しっかり上がっています。11年3月の震災直前には、07年7月初めの9割近く (2011年3月1日で88.6%)まで回復しているのです。高値圏だった07年7月初めからすれば、昨年3月には1万6000円程度まで戻していた、という解釈の仕方もあってしかるべきでしょう。
もっとも、その後は上値が伸びず、10年以後の推移の中では足元の株価は低水準にありますが、それでも07年7月初めの75%程度(7月20日で74.5%)です。ということは、現状の株価は1万3500円 ぐらいだ、と捉えることもできます。09年3月の安値(48.3%)と比較すれば、いまの株価水準でさえも、その約1.5倍です。
「ドル換算がどうでも、現実の日経平均株価が8500円なんだから、そんなことを言っても意味がないだろう」と思うかもしれません。
そんなことはありません。
ドル換算の日経平均株価は、日経平均株価をその時々のドル円レートで割って算出します。これは、「ドルを売って円を買い、買った円で日経平均株価を買う」という投資行動を意味します。つまり、たとえば225先物なりミニ先物なりを買い、その一方で、FXのドル・ショート(円ロング)を同額分行えば、トータルすると、ドル換算の日経平均 のようなパフォーマンスが得られるということです。 この売買では、ショートした米ドルに対する円の価値に応じて日経平均株価が評価されることになるので、円高ドル安はパフォーマンスのプラス要因、円安ドル高はパフォーマンスのマイナス要因になります。何かにつけて悪材料視される円高も、この売買ならばメリットになるわけです。
米ドル以外の通貨でも、その通貨換算の日経平均株価の推移を見れば、「日経平均株価を買い、その一方で、 その通貨をショート(円ロング)する」という売買をしたら、そのパフォーマンスがどんな感じになるのかがわかります。それは、その通貨の国の人が日経平均株価を買っていた場合のパフォーマンスでもあります。
いくつかの通貨を見てみましょう。
豪ドル換算のパフォーマンスはいまひとつですが、 とはいえ、円の日経平均株価よりも高い水準です。ユーロ換算では07年7月の8割の水準、南ア・ランド換算では9割の水準となっています。これらの通貨の国の人からすれば、日経平均株価はそれほど悪くはない、というよりも、そこそこ良好なのです。
ちなみに、これらの通貨はFXでショートすることができます。豪ドルや南ア・ランドは、支払うスワップ・ポイントが高めなのでコスト高になるかもしれませんが、ユーロならば、「日経平均を買い、FXでショート」の売買でこれに近いパフォーマンスが得られるのではないかと思われます。
また、FXでは取り扱いがない通貨ですが、ブラジル・レアル換算では07年7月の8割程度。しかも、ここへ来て上値を伸ばしはじめています。
もうひとつ、FXで取り扱いのある金融機関が多くはない通貨ですが、日経平均株価がこんな推移を描く通貨もあります。
韓国ウォン換算の日経平均株価です。“リーマン・ショック”で急落することもなく、これまでの間、何度か07年7月の高値を超える局面が出現しています。10年以降でいえば、07年7月の水準の90%〜105%程度のレンジで動いていますから、イメージとしては「1万6500円〜1万9200円」といったところです。
この「日経平均株価を買い、その一方で、他の通貨をショート(円ロング)」という売買は、近年人気を集めている投資信託「通貨選択型」の逆バージョンとも言えます。
通貨選択型ファンドは、主に米ドル建ての債券や株式に投資し、その一方で、選択した通貨と米ドルとの間で先渡し取引の買い手になる、というのがその基本構造です。ブラジル・レアルコースを選択した場合ならば、「レアルをロング、米ドルをショート」の立場になります。
これによって、米ドルの為替変動がレアルでヘッジされ、その結果、投資した米ドル建ての債券や株式の対円の価値、すなわちファンドの基準価額は、レアルの対円レートに影響されることになります。これは、米ドルが間に入ってはいますが、事実上「レアルをロング、円をショート」したのと同じような意味です。よって、円安・レアル高は、ファンドの基準価額のプラス要因、円高・レアル安は、ファンドの基準価額のマイナス要因となります。つまり、通貨選択型の投資信託とは、円で買った対象資産の価値を、選択した通貨の対円価値に置き換えてしまう金融商品というわけです。
FXは先渡し取引とほぼ同じ仕組みですから、「円をショート、他の通貨をロング」という売買は可能です。その一方で、日経平均株価を買ったとすると、そのパフォーマンスはロングした通貨の対円レートに連動する形になります。言うなれば、これは「通貨選択型の日経平均株価」です。
この場合のパフォーマンスはどうなるでしょうか。
先ほど見たのと同じ通貨について調べてみました。
FXでは取り扱っていない通貨も入っていますが、先ほど見たのとは正反対に、どの通貨を選んでも、実際の日経平均株価のパフォーマンスよりも低くなってしまいます。
もっとも、豪ドルや南ア・ランドのような高金利通貨の場合は、FXでスワップポイント(先渡し取引ならばヘッジ・プレミアム)がつきますから、パフォーマンスはこれよりは高くなるでしょう。ただ、それでも、先ほどの「各通貨をショート(円ロング)」で各通貨換算にした日経平均株価のパフォーマンスを上回るかどうかは疑問です。
最近は、日本株に投資する通貨選択型ファンドも増えています。これは、日本株のパフォーマンスが、選んだ通貨の対円レートに連動する形になるわけですから、「円安・選んだ通貨高」はパフォーマンスのプラス要因、「円高・通貨安」はマイナス要因です。日本株は円安になると上昇する、円高では下落する傾向が強いことからすると、円安になれば「株価高+為替益」のダブル・メリット。逆に、円高になれば「株価安+為替損」のダブルパンチになる可能性は承知しておく必要があります。
高い分配金が出ることから人気を集めているファンドですが、購入するタイミングは十分に気をつけたほうがよさそうです。リスク分散の観点で言えば、むしろ、「日本株を買う一方で、FXで通貨をショートする」という、“通貨逆選択型”の売買を検討する ほうがよいようにも思います。FXで取り扱いのない通貨でも、そうした売買と同じ効果が得られる「通貨逆選択型の投資信託」があれば便利なのですが、残念ながら、その気配は一向に見られません。
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